(余録)何人もの「建国の父」が制定にかかわった米国憲法だが… - 毎日新聞(2017年2月7日)

http://mainichi.jp/articles/20170207/ddm/001/070/108000c
http://megalodon.jp/2017-0207-0918-23/mainichi.jp/articles/20170207/ddm/001/070/108000c

何人もの「建国の父」が制定にかかわった米国憲法だが、中でもとくに「憲法の父」と呼ばれる人がいる。第4代大統領になったジェームズ・マディソンで、その草案を起草し、市民の基本的人権を定めた権利章典(修正条項)も成立させた。
マディソンが憲法制定で心をくだいたのは、権力の集中を防ぐことで、とりわけ多数者が少数者の権利を侵害することを恐れた。マディソンが守ろうとしたのは少数の富裕者だったが、多数派の圧政から少数派の自由を守る憲法の存在意義は後の世へと受け継がれる。
政治学者ダールは民主主義を分類し、司法や諸集団の利害によって権力が制限される「マディソン的民主主義」と、多数決を人民の意思とする「ポピュリズム的民主主義」とを挙げた。そして今日、選挙の勝利をたてに、司法を口汚くののしる大統領の出現である。
中東など7カ国からの入国を一時禁止する大統領令を差し止めた連邦地裁命令をめぐり、その判事に「何か起きたら彼と裁判制度のせいだ」と反論したトランプ大統領だった。大統領が司法の判断を批判する前例はあるものの、判事を個人攻撃するのは異例だという。
就任直後から大統領令を連発するトランプ大統領だが、マディソンが仕込んだ三権分立の「抑制と均衡」からは逃れられない。大統領令で権利を侵される者が提訴すれば司法は黙っていないし、予算支出が必要な政策は議会の過半数の賛成を調達しなければならない。
その虚実をとりまぜたツイッター攻撃で、まるでポピュリズムの力試しをくり広げるかのような大統領である。米国のマディソン的民主主義の正念場だ。