(余録)米大統領選で一般得票数が首位でないのに… - 毎日新聞(2017年1月31日)

http://mainichi.jp/articles/20170131/ddm/001/070/124000c
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米大統領選で一般得票数が首位でないのに大統領になった最初の例は第6代のジョン・クインシー・アダムズだった。1位の候補が必要な選挙人数を獲得できず、議会の裏取引で彼が選ばれたのだ。
「前の大統領の誰より少ない信任しかあなた方から得ていない私としては、あなた方の寛大さを必要とすることがより多く頻繁(ひんぱん)に生じるだろうことを、十分に認識している」。就任演説も低姿勢だったが、では1位より200万票も少なかった第45代大統領はどうか。
のっけから前任者の施政を覆す大統領令を次々に連発、得票数には不正があったと調査を命じる構えも見せているから、とんでもない高姿勢である。その大統領令の中でもすぐさま大混乱を引き起こしたのが、難民や中東などの7カ国の市民の一時入国禁止令だった。
ビザや永住権があるのに米国の空港で拘束される人が続出する騒ぎとなり、抗議デモは全米30都市以上に広がっている。欧州や中東の諸国の首脳もこの事態に批判の声をあげる中、米国内の15州と首都の司法長官は大統領令憲法違反だと非難する共同声明を出した。
誇らしげに大統領令にサインするトランプ氏だが、これからはそのあらゆる結果に責任を負うことになる。世界中のイスラム教徒の反発や怒りも、国際社会での米国の威信凋(ちょう)落(らく)も、テロと戦う米国の友人の窮地も、すべて今後自らが引き受けねばならない現実である。
アダムズは低姿勢でも議会に支持されず、史上最も無力な政権の一つとされた。議会や司法、国際社会の支持など眼中にない米国大統領の高姿勢が何をもたらすかは歴史のまったく新しい局面だ。