(余録)権力のリアリズムを説いた「君主論」のマキャベリは… - 毎日新聞(2016年8月1日)

http://mainichi.jp/articles/20160801/ddm/001/070/181000c
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権力のリアリズムを説いた「君主論」のマキャベリは15〜16世紀のフィレンツェの男だから、この書物には女性についてのひどいたとえもある。君主に欠かせない「力」と「運」の2条件のうち、運命との対決を説くくだりでこんなことを言う。
「運命は女神であり、それを支配しておこうとするならば打ちのめしたり突いたりする必要がある」。むろん人の行動は運命に合致すれば成功し、しなければ失敗する。だがマキャベリによれば、運命の女神は慎重な人より、強気な人の果断に従いやすいというのだ。
さて男性が女性に暴力をふるうなど言語道断(ごんごどうだん)となった今日では、女性初のトップの座をめざす政治家が果敢な先制行動に出て運命の女神を出し抜く事態も生じる。所属する自民党に断りもなくいち早く立候補を表明して、東京都知事選に大勝した小池百合子(こいけゆりこ)氏だった。
前知事辞職による突然の選挙で、直前に参院選もあった都知事選である。与野党両陣営の候補者選びの遅れを突き、むしろ都議会自民党との対決姿勢を強烈にアピールして幅広い支持を集めた小池氏だった。党の推薦を得られぬ逆境を追い風に変えた運命逆転である。
2020年五輪にむけて国際的にも東京の顔となる初の女性都知事誕生だ。しかし都民にすれば超高齢化や待機児童、首都防災など足元の待ったなしの難題にすぐにも応えてもらいたい。選挙戦を盛り上げた都議会との対立の演出だけで解決できる問題は何一つない。
「運に依拠せぬ君主権の方が容易に維持される」もマキャベリだ。そう、王のもう一つの条件たる「力」、都知事としての力量がいよいよ試される。