http://mainichi.jp/articles/20160702/ddm/005/070/135000c
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熊本県宇城(うき)市(旧松橋(まつばせ)町)で31年前に男性が殺害された「松橋事件」で、殺人罪で懲役13年が確定し刑期を終えた宮田浩喜(こうき)さんについて、熊本地裁が裁判のやり直しを決めた。
再審開始決定は、有罪確定後の検察側の証拠開示で自白と矛盾する新証拠が見つかったことなどを根拠としており、妥当な判断である。
宮田さんは、知人だった男性を小刀で刺殺したとして逮捕、起訴された。取り調べ当初は否認したが自白に転じ、1審・熊本地裁の公判途中で再び否認し、その後は一貫して無罪を主張してきた。当初の自白が確定判決の有罪の根拠になった。
確定判決を覆したのは、弁護団が検察から開示されたシャツの布片5枚だった。宮田さんは、小刀の柄にシャツの袖を切り取った布を巻き、犯行後燃やしたと自白していたが、柄など特徴が一致した。弁護団がつなぎ合わせると欠損はなかった。
決定は、このシャツを新証拠と認めたうえで、燃やしたはずのシャツが残っており、血痕もないことから自白の信用性に疑問を投げかけた。
さらに決定は、小刀と被害者の傷の形状が一致しないという弁護団が提出した法医学者の鑑定書の結果も併せ、「小刀が凶器ではない疑いが強い」と結論づけた。
布片が開示されたのは1990年の判決確定から7年後だった。当時は、どんな証拠をいつ開示するかは検察の裁量に任されていた。
その後、裁判員制度実施前の2004年に刑事訴訟法が改正され、公判前に争点を整理する手続きがとられる裁判での証拠開示が進んだ。さらに、今年の通常国会で同法が改正され、検察官は被告側から求めがあれば証拠一覧表を示すことが義務づけられた。一定の前進だが、全面的な証拠開示には至っていない。
東京電力女性社員殺害事件など、検察側が長く開示しなかった証拠が再審開始決定や無罪に結びついた例は少なくない。今年の法改正に当たっては、再審請求段階での証拠開示を進める必要性が指摘されたが、法制化は見送られた。
そもそも捜査を通じて集められた証拠は警察・検察の私有物ではない。真相究明にこそ使われるべきだ。少なくとも被告が否認する事件では、有利不利を問わず速やかに被告側に証拠を全面開示するのが筋だ。その仕組みを早急に整えたい。
決定からは、警察・検察が自白に頼り切り、客観的な裏付け捜査を怠ったことが読みとれる。自白偏重を反省する契機にもしたい。
宮田さんは83歳だ。検察が即時抗告し、裁判のやり直しをするかどうかで争い時間を費やすのではなく、早く再審裁判を始めるべきだ。