(余録)日露戦争の講和をあっせんしてノーベル平和賞を受けた… - 毎日新聞(2017年9月22日)

 
https://mainichi.jp/articles/20170922/ddm/001/070/159000c
http://archive.is/2017.09.22-003741/https://mainichi.jp/articles/20170922/ddm/001/070/159000c

日露戦争の講和をあっせんしてノーベル平和賞を受けた米国大統領セオドア・ルーズベルトだが、人柄は平和的でなかった。自前の義勇軍を率いて戦場に赴くなど、歴代大統領の中でも名うての戦争好きだった。
「こん棒外交」とは武力を背景に米大陸の国々に介入した彼の外交をいう。「大きなこん棒を持って、静かに話せ。そうすれば話は前に進む」。彼はそう語り、帝国主義時代の米国の影響力を広げた。
大きなこん棒を持つ者は騒いではいけない。逆に決定的な力のない者がハッタリを言う。それが従来の国際政治の常識だった。だから先日、米大統領北朝鮮の「全面的破壊」を口にした時、国連の議場がざわめいたのも無理はない。
大言壮語(たいげんそうご)で戦争の危機をあおって実利を引き出すのは北朝鮮の指導者の得意芸である。核やミサイルの開発もそのための道具にほかなるまい。しかし対する米大統領まで似た芸風に染まるとは昨年まで誰も予想しなかった展開である。
北の外相がこれに「犬がほえる声」と応じたのは、殲滅(せんめつ)やら火の海やらといった脅し文句の大好きな自分たちのお株を奪われたからか。米大統領には北が求める戦略的対等にお墨付きを与えるような恫喝(どうかつ)の激しさ比べは得策といえまい。
ここは北の暴発を抑止しつつ、国際社会の対北制裁の結束をリードする静かで大いなる力を示してほしい米大統領である。ついでながらこん棒外交の大統領は退任後、第一次大戦での愛息の戦死によりすっかり元気を失ったそうである。