(余録)江戸の人の習いごと熱は生半可でなく… - 毎日新聞(2017年10月24日)

https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171024/ddm/001/070/156000c
http://archive.is/2017.10.24-003655/https://mainichi.jp/senkyo/articles/20171024/ddm/001/070/156000c

江戸の人の習いごと熱は生半可(なまはんか)でなく、珍妙な師匠もたくさんいたそうな。なかには「秀句(しゅうく)指南」というのもあった。俳句や川柳を教えるのではない。「秀句」とはシャレ、はっきり言ってダジャレのことだ。
「ありがたいねえ」と言われたら「蟻(あり)が鯛(たい)なら芋虫(いもむし)ゃ鯨(くじら)」と返せ。「猫に小判」には「下戸(げこ)に御飯」と言え……。こんなことを人に教えて商売になったというから、江戸というのはすごいところである(杉浦日向子(すぎうら・ひなこ)著「一日江戸人」)
落語の「あくび指南」はこの風潮を皮肉った噺(はなし)で、その枕には「けんか指南」も出てくる。こちらはけんか上手で聞こえ、自ら指南した塾生もいる東京都知事。その乾坤一擲(けんこんいってき)、あわよくば天下取りと仕掛けた大げんかの大誤算である。
もちろん小池百合子(こいけ・ゆりこ)氏の希望の党である。自民党を向こうに回して一挙に民進党をのみ込んだ手並みが世を驚かせたが、リベラル派相手の「排除します」の“拙句”で勝負運はすぐに去った。結果は、左右のけんか相手の勝利であった。
もともと内閣支持率が不支持率を下回るなかでの衆院選である。このような状況で与党が勝利したのは、今の選挙制度になって初めてという。野党を分裂させ、与党に漁夫の利をもたらしたけんか上手に必要なのは秀句指南だったか。
2大政党制や多党制など、政党間の関係を政党システムというが、政党政治には民意を的確に映す政党システムが欠かせない。見境ないけんかで壊れたシステムを立て直す政治的な賢慮が問われる野党各党だ。