奈良県の意識調査 政治利用になりかねない - 毎日新聞(2019年11月18日)

https://mainichi.jp/articles/20191118/ddm/005/070/043000c
http://web.archive.org/web/20191118001617/https://mainichi.jp/articles/20191118/ddm/005/070/043000c

行政の情報収集のあり方として問題をはらむ事例である。
奈良県が県民を対象に実施した政治意識調査で、国政選挙や奈良県知事選などで誰に投票していたかを具体的に調べていた。
調査は「奈良県投票率の向上」と「地方政治の活性化」を目的に先月から今月にかけて行われた。委託を受けた民間業者が無作為に抽出した2000人を対象に質問票を郵送し、無記名で回収した。
自治体が市民の意識調査をして政策に反映させることは、ひとつの方法だ。報道機関は有権者に投票先を聞く情勢調査を実施している。これは、より質の高い選挙報道を提供するという公益性があるためだ。
だが今回の調査の場合、設問内容に疑問を抱かざるを得ない。
投票先だけにとどまらない。首相や知事らについて、好感度を0~100度の温度に例えて書くよう求める項目もあった。
さらに知事らについて「革新的」か「保守的」かまで、7段階で評価を聞いていた。投票率向上などの調査目的と、設問には乖離(かいり)がある。
好感度などを公表すれば県民の世論を政治的に誘導する恐れがある。たとえ公表しなくても、有権者の政治動向を知ることでそれを選挙対策などに反映させる政治利用につながりかねない。調査は中立性の観点からも、県民の税金の使途としても適切さを欠いている。
奈良県は今回、地方自治が専門の大学教授ら識者7氏に設問を依頼したが、設定に責任を持つのは県だ。世論調査の専門家からは、問題となる設問の削除を求めなかった県側の対応を疑問視する声が出ている。より慎重に判断すべきだった。
今回の調査について県は「回答者個人が特定されないように処理しており、プライバシーの問題は生じない」と説明している。だが、個人の投票先は行政が関与することに最も慎重であるべき情報だ。他の自治体などに同じような調査が広がれば、個人情報保護の点からも問題が生じる恐れがある。
県は調査結果を精査したうえで、来年3月までに内容を公表する予定という。しかし、まずは、今回の調査が妥当だったかどうかを十分に検証すべきだ。