http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016060302000132.html
http://megalodon.jp/2016-0603-1003-40/www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016060302000132.html
安倍晋三首相が「公約」を覆し、再び消費税増税の先送りを表明した。限界が明白となったアベノミクスはやめ、税と社会保障の改革をやり直すべきだ。
いくら世界経済のリスクを強調したところで、厳然とした事実は残る。それは「アベノミクスで増税できる環境をつくる」とした国民との約束を果たせなかったことだ。どうして増税に耐えうる経済環境ができなかったのか、社会保障と税の今後をどうすべきか。◆アベノミクスは限界
経済停滞の最大の理由は消費の伸び悩みだが、首相周辺は二年前の消費税8%への増税が引き起こしたと言い張った。しかし、これほどまでに長引くのは、他に原因があるからだろう。非正規雇用の拡大に伴い賃金全体が伸びていないこと、若年層の将来不安など格差拡大が背景にある。年収四百万〜七百万円の「中間層」は細り、その下方の階層が厚みを増した。
所得だけではない。貯蓄も三千万円以上の比率が上昇しており、アベノミクスが所得と資産の二極分化を生んできたことを統計は物語る。富が滴り落ちる「トリクルダウン」は虚妄でしかなかった。
最大の眼目であったデフレ脱却も実現していない。それは「日銀の異次元の金融緩和」に依存するばかりで、経済の実力を高める「成長戦略」が一向に進まなかったからである。最も重要な成長戦略だが、官僚たちの予算要求の場と化しているのが実情である。
第一の矢の異次元緩和も手詰まり感が見え、第二の矢の財政出動も増税延期でなお厳しくなる。それでも会見で「アベノミクスのエンジンを最大限ふかす」と力説する首相の姿は危うすぎる。
消費税の10%への引き上げは、二〇一二年に当時の民主党政権だった野田佳彦首相が自民、公明と三党合意としてまとめた社会保障と税の一体改革が原点である。◆崩壊した一体改革
すなわち消費税の増税を財源に子育てや介護などの社会保障を充実する枠組みである。しかし、安倍政権が二度にわたって延期したことで、もはや理念も枠組みも崩壊したといってもいい。
そもそも私たちは、今の消費税増税自体に反対してきた。それは前提となる社会保障の抜本改革が進まず増税だけが進むことを恐れるからだ。少子高齢化の進展で社会保障費は毎年一兆円ずつ増え続ける。給付を抑えないかぎり、いくら増税しても際限がないということになりかねない。
国民に負担を強いる以上、国会議員も身を切る改革を行い、天下りなど利権に群がっていたシロアリ官僚も退治すると言明したが、その約束も果たされてはいない。
「支払った消費税は社会保障サービスとして戻ってくる」などという甘言を聞く。本当にそうであるならば、国民の理解は進むかもしれないが実際はそうではない。
「消費税は全額社会保障に充てる」のではなく、社会保障の充実には5%から10%に引き上げる5%のうち1%分だけだ。4%分は過去の財政赤字の穴埋め、将来世代へのつけ回し回避に使われる。
消費税は「現役世代から高齢者まで広く薄く負担するから望ましい」といわれるが、それ以上に取りやすいからではないのか。忘れてならないのは低所得者ほど負担が重い逆進性があることだ。
一体改革が事実上ほごにされ、負担と給付のバランスも崩れている以上、もはや税と社会保障制度を再構築すべきである。大前提となるのは、アベノミクスで失われてしまった再分配機能の強化であり格差是正の観点であることは言うまでもない。
「富裕層は、負担を増やし給付は抑える」のが基本だろう。たとえば、富裕層は株の配当や譲渡益などの金融所得が大半だが、その税率は20%の分離課税で勤労所得にかかる所得税に比べ低すぎる。富める者がますます富む資本主義では、税の強力な再分配なしには格差は広がるばかりだ。
一方で、社会保険料は所得に関係なく一律であり、消費税と同様、逆進性があるので見直すべきだ。さらに税と社会保険料の徴収を一手に担う歳入庁をつくる。法人から社会保険料の徴収漏れが減り、兆円規模の増収が見込めるはずだ。◆成長戦略にすべきは
アベノミクスは、法人税の引き下げや国家戦略特区など大企業を優遇する成長戦略が目立った。しかし、結局のところ、経営者も国民も景気回復に確信がもてないために賃金や設備投資、そして消費へと波及する好循環は生まれなかったのである。
明らかになったのは、安心して働き暮らすための社会保障こそが冷えきった消費に火を付けられるということだ。社会保障の再構築を成長戦略の柱にすべきである。