(筆洗)『必殺仕置人』には黒幕がいて、その人が将軍になってしまう… - 東京新聞(2016年5月13日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016051302000144.html
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<のさばる悪を何とする 天の裁きは待ってはおれぬ この世の正義もあてにはならぬ 闇に裁いて仕置きする…>。かつての人気時代劇『必殺仕置人』は、そんなナレーションで始まった。法の裁きから逃れる悪人にひそかに制裁を加える。何とも痛快なドラマだった。
この人の人気も、ひとことで言えば「痛快さ」なのだろう。フィリピンの大統領選で勝利したロドリゴ・ドゥテルテ氏だ。彼の発言は、こんな調子だ。
「なぜダバオが安全な都市になったか? (犯罪者を)皆殺しにしたからだ」「私が大統領になったら、葬儀社を始めるといい。やつらをまとめて届けてやるから」
ドゥテルテ氏は二十年以上もダバオ市長を務め、治安改善に豪腕を振るったとされる。だがダバオでは犯罪容疑者らを闇で葬る「暗殺団」がうごめき、千人余が殺害されたという。
その背後にはドゥテルテ市長がいる、と国際的人権団体は繰り返し指摘し、国連の特別報告者も「暗殺は完全な刑事免責のもとに行われている」「ドゥテルテ氏は、暗殺を防ぐための手を何も打っていない」と批判していた。
必殺仕置人』には黒幕がいて、その人が将軍になってしまう…というのは、ドラマの筋書きとしてもいかがなものか。法を法とも思わぬ最高権力者の暴走をどう防ぐか。そんな飛び切りの難題に、フィリピンの人々は直面するかもしれぬ。