余録:少女は入学した高校で激しいいじめに遭う。弁当や… - 毎日新聞(2015年9月1日)

http://mainichi.jp/opinion/news/20150901k0000m070149000c.html
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少女は入学した高校で激しいいじめに遭う。弁当や教科書が捨てられた。ゴミ箱の中を必死に捜す自分を同級生が笑って見ている。先生に相談しても取り合ってくれない。学校の最寄り駅の待合室で睡眠薬を一気に飲んだ。
床に倒れた。見ず知らずのおばちゃんが駆け寄り、頭を膝に乗せてなでられた。救急車に運ばれる時、黒糖(こくとう)のあめを握らされた。「いつもこの時間にここにおるねん。しんどい時には甘いもんや、しんどなったらおばちゃんとこおいで。あめちゃん、なあんぼでもあげるから」
NPO法人再チャレンジ東京が募集した「全国いじめ・自殺撲滅(ぼくめつ)作文コンクール」の最優秀作品。最近出版された「いじめストップ読本」に収められている。大阪市在住の女性(25)の体験だ。
退院して駅の待合室に行った。「よう元気になったなあ」。抱きしめられ、一緒に泣いてくれた。勇気を振り絞って校長室のドアを開ける。クラスで起きたことを打ち明けるためだ。言葉に詰まり、涙が出そうになった。ポケットにしのばせたあめちゃんを握りしめた。不思議と気持ちが落ち着いた。
少女は大人になり、中高年向けのカルチャースクールで働いている。「困った時はお互い様なんや」。おばちゃんの言葉を思い出す。「あの時の恩返しをしているつもり。私も誰かの話を聞いて、誰かに寄り添う」。いじめの事件が繰り返される。そのたびに今の大人たちのことを考える。
元気になった少女がその後、いつもの時間に駅へ行っても、なぜか会えなかった。彼女は思う。あの人は天使だったのでは。あめちゃんを持った天使。日本中にいてくれたら。

再チャレンジ東京
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いじめストップ読本
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