<視点>侵略戦争のつけ重く ロシアの勢力圏が揺らぐ 論説委員・青木睦 - 東京新聞(2023年12月27日)

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バルト3国を除く旧ソ連圏内の「共通語」はロシア語である。外交行事でもロシア語が話される。ところが、カザフスタンのトカエフ大統領はこの11月、ロシアのプーチン大統領との共同記者会見の冒頭、カザフ語を使った。プーチン氏はじめロシア側外交団は慌てて同時通訳のイヤホンを装着した。

ロシアは旧ソ連圏を「近い外国」と呼び、自分の勢力圏と見なす。いわば縄張りである。だが、ウクライナ侵攻は旧ソ連諸国にロシアへの警戒と不信感をかき立てた。ロシア系住民の保護が侵略の大義名分になるのなら、次は自分が標的になるかもしれない、と各国は身構える。

共同会見でトカエフ氏がとった行動は、カザフは独立国家でありロシアの属国ではない、と暗に意思表示したものだという臆測を呼んだ。

プーチン氏はかつて「カザフ人は一度も国を持ったことはなかった」と発言したことがある。トカエフ氏は忘れていないだろう。プーチン発言は事実とは異なる。15~19世紀にカザフ民族によるカザフ・ハン国という遊牧国家が中央アジアに存在した。

トカエフ氏はロシアによるウクライナ南・東部4州の併合を認めず、侵攻をめぐってプーチン氏に面と向かって苦言を呈したこともある。

ただし、トカエフ政権が反ロシアに転じたわけではない。カザフは北のロシアとは7600キロ余の国境で接する。ひところよりは減ったとはいえ、全人口の18%はロシア系だ。巨大な隣人との付き合い方は慎重を期さないと、虎の尾を踏みかねない。

カザフをはじめ旧ソ連圏の中央アジア各国は中国やトルコ、さらには米国などとも関係を進めるバランス外交によって、ロシア・リスクの回避に努めようとしている。

あからさまにロシア離れを図った国もある。カフカスアルメニアだ。アゼルバイジャンに敗北を喫したナゴルノカラバフ紛争で、頼みとするロシアが支援に乗り出さなかったことに強い不満を持っている。アルメニア国際刑事裁判所ICC)への加盟を決めた。ウクライナの子どもを連れ去った戦争犯罪容疑で、ICCから逮捕状が出ているプーチン氏への反抗であることは明らかだ。

32年前の1991年末にソ連が解体し、11カ国のソ連構成国が独立国家共同体(CIS)の創設協定に調印した。帝国崩壊に伴う混乱を避けるため、新興独立国家による緊急避難的な共同体だった。2年後にはジョージアグルジア)も加盟した。

ところが、ロシアと軍事紛争を起こしたジョージアは2009年に脱退し、ウクライナもロシアによるクリミア併合を機に事実上脱退した。

この10月に開かれたCIS首脳会議には、親欧米路線を強めるモルドバアルメニアの両国首脳が欠席した。ロシアが盟主を自任するCISは空洞化が進む。