【政界地獄耳】マスメディアの実名報道 報道の自由を守るためにも立ち止まる時期ではないか - 日刊スポーツ(2023年10月24日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202310240000048.html

ジャニーズ事務所が設置した「外部専門家による再発防止特別チーム」の調査報告書に「マスメディアの沈黙」という指摘があり、メディアはそれに飛びついた。NHKは「職員の行動指針として『人権、人格を尊重する放送を行うこと』を定めており、性暴力について『決して許されるものではない』という毅然(きぜん)とした態度でこれまで臨んできたところであり、今後もその姿勢にいささかの変更もありません」。日本テレビは「人権を尊重した企業活動に努めてまいります」。ほかの民放各社も「人権尊重」をこれからも続けると強く宣言した。

★だが19日、栃木県上三川町でレンタカーに女子高校生の遺体を遺棄したとして28歳の容疑者が逮捕された事件報道を見ると宣言とは裏腹な感想を持たざるを得ない。未だ詳しい事件の詳細は明らかでないが、東京新聞以外の多くの中央メディアは日刊スポーツも含め、実名や年齢、テレビに至っては顔写真をも放送し、記事化された。初動では実名報道したものの、その後匿名に切り替える判断をしたメディアもあったようだ。昨今の人権意識や一連のテレビなどの“宣言”に照らせば、社内で議論はあってしかるべきだ。また「宣言」の中の性被害者には人権はあるが、死亡した被害者には適用されないなどないはずだ。

★社会部の記者はひとたび飛行機事故が起これば乗客名簿から翌日の朝刊にそれがいくら昔のものだろうが、何人の顔写真を集めて載せられるかを競ってきた。それが当たり前の時代もあったろう。多くの被害者家族が実名や顔写真報道をやめて欲しいと訴えてきても聞き入れられなかった。報道は人権より勝るという考えもあったかもしれないが「死人に口なし」では浮かばれない。日弁連は「市民の『知る権利』は民主主義の根幹」と認めつつも「マスメディアは興味本位と営利目的に流され、市民に対する行き過ぎた取材・報道や誤報により、その名誉・プライバシーなどの人権を侵害し深刻な被害をもたらしている」と指摘している。報道の自由を守るためにも立ち止まる時期ではないか。(K)※敬称略