<金口木舌>目を背けてはいけない - 琉球新報(2023年7月13日)

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その場に居合わせたら、どう対応できるのか。森達也さんが監督を務めた映画「福田村事件」は、実際にあった事件を描き、虐殺に走った民衆とあなたは違う人でいられるかを問う

▼事件は関東大震災直後の1923年9月6日に起きた。千葉県の福田村(現・野田市)で香川県の薬の行商人15人のうち9人が自警団に殺害された。震災の恐怖と不安がさめやらず「朝鮮人が井戸に毒を入れた」などのデマも流れた
▼普段は善良で穏やかな個人がデマに踊らされる。その途端、暴徒と化し凶行に及んだ。自警団は訛(なま)りのある行商団の話し方から朝鮮人と決めつけ、刃を向けた
▼加害者を軸に描く映画を見て、ナチスホロコーストを研究したユダヤ人学者ハンナ・アーレントの言葉「悪の凡庸さ」が頭をよぎった。「思考や判断を停止し、外的規範に盲従した人々によって悪は行われた」と
▼人が成長するため「歴史とは失敗を記憶するためにある」と森さんは語る。人のうちにある凡庸な悪が震災下で暴虐を犯した。目を背けてはいけない歴史である。

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福田村事件 - 特定非営利活動法人香川人権研究所

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