東日本大震災 震災後のデマ「信じた」8割超す 東北学院大、仙台市民調査 - 毎日新聞(2017年3月13日)

https://mainichi.jp/articles/20170313/ddm/004/040/009000c
http://archive.is/2017.03.17-041956/http://mainichi.jp/articles/20170313/ddm/004/040/009000c

東日本大震災から6年。発生後に被災地で流れた「外国人犯罪が横行している」とのデマについて東北学院大の郭基煥教授が仙台市民に調査したところ、8割以上がデマを信じていたとする結果が出た。郭教授は「非常時の特殊な心理は容易に拡散する」と情報を冷静に選択するよう呼びかけている。【高橋昌紀、本橋敦子】

外国人犯罪」のうわさ
共生社会論を専攻する郭教授は昨年9〜10月、仙台市で震災の被害が大きかった青葉、宮城野、若林の3区に住む日本国籍の20〜69歳、計2100人を対象に郵送で調査した。770人から回答を得た(回収率36・7%)。
「被災地における外国人による犯罪のうわさを聞いた」と答えた人は51・6%だった。そのうち86・2%が「とても信じた」「やや信じた」と答えた。うわさを聞いた犯罪の種類(複数回答)は「略奪、窃盗」97・0%、「遺体損壊」24・4%、「強姦(ごうかん)、暴行」19・1%だった。「誰がしたと信じたか」(複数回答)を尋ねたところ「中国系」(63・0%)、「朝鮮・韓国系」(24・9%)、「東南アジア系」(22・7%)だった。

震災後、街で整然と行動する人々の様子がテレビで報道された。郭教授は「『日本人は秩序正しく行動する』とのイメージに矛盾しないためにも、『犯罪を犯すのは外国人』とする流言は好都合だったのではないか。また、悪意ではなく周囲の人たちの身の安全を心配して、犯罪が起きているとのうわさを流してしまう人もいたのではないか。単純に排他主義と片付けることはできない。難しい問題だ」と分析する。

情報見極める必要
郭教授は比較のため東京都新宿区の700人にも同様の調査をした。回答者は174人(回収率24・9%)で、外国人犯罪のうわさを聞いた人は70人にとどまったが、そのうちうわさを信じた人は85・7%(60人)と仙台市と同様の傾向が見られた。

郭教授は「震災にデマは付き物だ。それを打ち消すのは容易ではなく、一人一人が判断する能力を身につける必要がある」と呼びかける。
宮城県警の統計によると、大震災が発生した2011年、県内で刑法犯罪で摘発された3899人のうち、来日・永住の外国人は1・5%(57人)。前後の年も10年1・3%(59人)、12年1・3%(53人)、13年は1・9%(67人)と割合に大きな変動はなかった。県警は震災当時、流言への注意を呼びかけるチラシを避難所に配布。ウェブサイトでも「2011年3月12〜21日の重要犯罪は4件で、前年同期の7件と比べて多くない」などと呼びかけた。県警生活安全企画課の金野聡課長補佐は「災害のときは報道機関や公的機関などの情報を確認して正しく行動してほしい」と呼びかける。

SNSで拡散、対処法教育
大きな災害が起きるたびに悪質なデマが広がり、深刻な被害が出ることもある。1923年の関東大震災では「朝鮮人が井戸に毒を投げ込んだ」などのデマが流布された。警察のほか、地元住民による自警団が組織され、各地で朝鮮半島出身者や中国人らへの虐殺事件が起きた。
近年はインターネットによってデマが広がるケースもある。今回の調査でも、うわさの情報源は「家族や地元住民」による口コミの68・0%に続いて、「インターネット」が42・9%だった。さらに震災後にスマートフォンが急速に普及したことで、ツイッターフェイスブックといったソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)を通じた発信の機会が増えている。昨年4月の熊本地震では、熊本市動植物園からライオンが逃げ出したとのうその情報と画像をツイッターで投稿した男が、偽計業務妨害容疑で熊本県警に逮捕された。
郭教授は「熊本地震ではツイッターに投稿されたデマを、別の投稿が打ち消す現象がみられた。使い方を間違えなければSNSは有効だ。対処方法を災害教育のプログラムに組み込むべきだ」と提言する。