<金口木舌>浮かばれぬ犠牲者 - 琉球新報(2023年4月6日)

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昨年4月に日本語訳された「飴売り具学永(クハギョン)」(展望社)という絵本がある。関東大震災の混乱の中、埼玉県寄居町朝鮮人青年の具さんが虐殺された事件を描く

▼「朝鮮人らが井戸に毒を入れた」。デマが飛び交い、不安を感じた具さんは警察署に避難したが、自警団に引きずり出され殺されてしまう
▼大震災の混乱で関東で虐殺された朝鮮人は6千人以上との数字もある。それだけではない。東京から千葉に逃れた避難者を地元の自警団が殺害した「検見川事件」の犠牲者3人の中に県出身者がいた。21歳の儀間次郎である。当時の報知新聞が伝えた。言葉のなまりで朝鮮人と決めつけられたとみられる
関東大震災から今年で100年。小池百合子東京都知事は2017年以降、朝鮮人犠牲者追悼式典への追悼文送付をやめ、2月の議会でも小池知事は「何が明白な事実かは、歴史家がひもとくもの」と述べた
▼無辜(むこ)の人を襲った蛮行はなぜ起きたのか。多くの研究がなされてきた。学ぶべき教訓を行政が放棄するのでは犠牲者が浮かばれない。