<コラム 筆洗>「石つくりの皇子(みこ)には、仏の御石の鉢といふ物あり。そ… - 東京新聞(2023年5月23日)

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「石つくりの皇子(みこ)には、仏の御石の鉢といふ物あり。それをとりてたまへ」。『竹取物語』でかぐや姫が結婚に応じる条件を示す。五人の求婚者に「宝」をそれぞれ指定し、取ってきた人と結婚すると宣言する。
難題である。仏の御石の鉢、蓬萊山にある根が銀で茎が金で白い玉の実のなる木の枝、龍の首に五色に光る玉、火鼠(ねずみ)の皮衣、燕(つばめ)の持つ子安貝−。かぐや姫に結婚する気はなく、難題で結婚の申し込みを断ろうというわけである。
一刻も早い核廃絶を願う人々にとって、その文書がかぐや姫の出す条件のように見えるのだろう。先進七カ国首脳会議(G7広島サミット)で採択された「核軍縮に関する広島ビジョン」である。
核兵器のない世界を追求する方向性を示す一方で文書には核廃絶への条件が並ぶ。「全ての者にとっての安全が損なわれない形で」「現実的で」「実践的な責任あるアプローチ」−
保有国は不安定な安全保障環境の中で核兵器を手放したくない。核廃絶には現実的で実践的な方法が必要なことも理解するが、その条件めいた表現が核廃絶に向けたG7首脳の熱を疑わせてしまうところもある。文書には核兵器には戦争抑止の役割があると認めてしまっているような表現もある。
どうあっても核兵器を世界からなくす。その理想と決意を聞きたかったはずだ。被爆地広島はそれがもどかしいのだろう。