オバマ氏広島へ 安全な未来への一歩に - 朝日新聞(2016年5月11日)

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オバマ米大統領が、主要7カ国(G7)首脳会議(伊勢志摩サミット)後の今月27日、広島を訪問することを決めた。
71年前、米軍が投下した原爆で壊滅した被爆地を現職の米大統領が訪れるのは初めて。オバマ氏は「核なき世界」の理念を改めて訴えるメッセージを発することを検討しているという。
米国内では「日本の降伏を早め、結果的に多くの米兵の命を救った」として、広島、長崎への原爆投下は正当だったと考える人が多数を占める。
それでもオバマ氏が広島に向かうのは、7年前のプラハ演説で掲げた「核兵器のない世界」の理想をもう一度、世界に発信したいとの熱意ゆえだろう。
広島を先月訪れたケリー米国務長官は「誰もが広島を訪れるべきだ」と語った。
核兵器の非人道性を今に伝える被爆地には、人の心を揺さぶる何かがある。その地でオバマ氏が発する言葉は、核兵器廃絶に向けた強い訴求力を持つことが期待できよう。
オバマ氏はプラハ演説で、原爆投下国としての「道義的責任」に言及したが、今回の広島訪問では「謝罪」ととられかねない言動は避けるとみられる。
それでも、原爆死没者慰霊碑に献花するなど、米大統領が犠牲者に追悼の意を示すことは、日米両国の関係において重い意味を持つだろう。
生き延びた被爆者たちは後遺症の不安と苦しみに耐えつつ、核兵器廃絶を訴え続けてきた。
オバマ氏の被爆地訪問に多くの被爆者が期待を寄せてきたのも、同じ目標を共有していると信じるがためだ。広島ではぜひ、そうした被爆者の切なる思いにも接してもらいたい。
米大統領被爆地訪問は、日本の戦争責任をめぐる論議を再燃させる可能性がある。韓国や中国ではすでに「加害者である日本を被害者にするものだ」といった反発の声が聞かれる。
オバマ氏を広島に迎えることは、日本の政治指導者も、過去の戦争責任をどう受け止めるべきか、改めて考える機会としなければならない。
71年前、広島、長崎で無数の市民を無慈悲に殺害した核兵器が、どこの国の人々に対しても二度と使われないことは、世界共通の願いのはずだ。
核大国の米国とロシアの関係が冷え込み、中国が核戦力増強を続ける。北朝鮮も核実験による挑発をやめない。
「核なき世界」への展望が開けない今こそ、オバマ氏が広島を訪れる意義を、すべての国の人々に受け止めてもらいたい。