オバマ氏広島へ 核なき世界へ道筋を - 東京新聞(2016年5月12日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/editorial/CK2016051202000151.html
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オバマ米大統領が主要国首脳会議(伊勢志摩サミット)閉会後の二十七日、広島を訪問する。自ら提唱した「核兵器のない世界」実現に道筋をどう付けるか。被爆地から力強く示してほしい。
原爆を投下した米国の現職大統領の被爆地訪問は初めて。決断を歓迎したい。安倍晋三首相も同行し、日米が共に核なき世界を追求する姿勢を世界に示す場になる。
米国内では原爆投下は太平洋戦争を早期終結させ、多くの米兵の命を救ったという正当化論がいまだに根強い。だが、広島訪問発表から一日過ぎても、厳しい反対論はまだ聞かれないという。
大統領は平和記念公園を訪れ、自らメッセージを発信する。ケリー国務長官が四月中旬、広島での先進七カ国(G7)外相会合に合わせて訪問した時と同様に、慰霊碑への献花、資料館見学が検討されているようだ。大統領報道官は「戦時中に死去したすべての無実の人々に敬意を表する機会になる」と述べたが、原爆投下の是非に触れず、謝罪を意図したものではないと説明した。
広島、長崎の被爆者団体は謝罪を強く求めてはいないが、核兵器の悲惨さ、被爆者が受けた体と心の傷と苦しみを知ってもらいたいと願っている。オバマ大統領だからこそ、被爆者たちと面会し、訴えに直接耳を傾けてほしい。
核問題には外交、安全保障の側面だけでなく、人道的見地からの関わりが不可欠だ。
大統領は二〇〇九年、プラハ演説で核なき世界の実現を訴え、ノーベル平和賞を受賞した。核安保サミット開催を主導し、イランの核開発を大幅に制限する合意も成し遂げた。一方で、ロシアと新戦略兵器削減条約を結び、大きな進展が期待されたが、交渉は行き詰まっている。核実験を重ねる北朝鮮には歯止めをかけられない。
軍縮と不拡散に幅広く取り組む大統領にとって、広島訪問は原点に戻る重要な機会になる。 
核兵器のない世界は理想論であり、核抑止力があるから大規模な戦争が起きないという考えは国際政治の主流をなす。唯一の被爆国・日本も安全保障を米国の「核の傘」に依存する。
しかし、核廃絶とは人類が積み残した、二十一世紀には完全に解決すべき課題だ。現実を理想に近づけていく努力を続けてこそ、人類の未来はある。
オバマ大統領の広島訪問を機に、私たちは核廃絶への誓いを新たにし、世界に発信したい。