G7広島会合 核廃絶への歩み加速を - 朝日新聞(2016年4月12日)

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原爆がもたらした被害に触れた経験を、核兵器廃絶への歩みを加速する原動力にしてもらいたい。
原爆を投下した米国を含む主要7カ国(G7)の外相が広島の平和記念公園を訪れ、原爆死没者慰霊碑に花を捧げた。
一行は平和記念資料館のほか、当初の予定になかった原爆ドームにも足を延ばした。
ケリー米国務長官は記者会見で、謝罪や犠牲者を悼むような言葉は発さなかった。一方で、資料館の芳名録に「世界中の誰もこの資料館の力を見て、感じるべきだ」とつづり、会見で「いつか大統領もその一人になってほしい」と語った。
被爆者の坪井直さん(90)は「満足ではないが、よくここまできた」と感慨を語った。
原爆を投下した側が大量破壊兵器の罪深さに思いをいたす意義ある瞬間だったと、多くの人が感じたのではないか。
ケリー氏は「核兵器のない世界」の実現に向けた決意も強調した。それこそが被爆地、被爆者が最も望むことだ。
オバマ氏の任期は来年1月までだ。米大統領被爆地で核廃絶のメッセージを発すれば、影響力は計り知れない。世界の未来のために決断を望みたい。
ただ今回の訪問をセレモニーで終わらせるわけにはいかない。G7は今後、具体的な行動が問われることになる。残念ながら、その指針となるべき「広島宣言」は力強さに欠けた。
広島、長崎の人々が原爆で苦痛を味わったことは表現した。だが、国際的な議論で近年注目を集める「核兵器の非人道性」という言葉は盛り込まれなかった。また、「現実的で漸進的なやり方」でなければ核廃絶は達成できない、とも強調した。
核廃絶はあくまで遠い目標だとの考え方がにじむ。「核兵器は非人道的で、条約で禁じるべきだ」という非核保有国の主張には賛同できない、との意思を示したといえる。
宣言を取りまとめた岸田文雄外相は「核兵器のない世界への機運を再び高められる」としたが、非核保有国との溝が深まる恐れはぬぐえない。被爆国の責務として、核保有国との橋渡しに力を注ぐ必要があろう。
ウクライナ問題でG7と対立したロシアは核依存を強める姿勢を見せる。中国は核戦力増強を進め、北朝鮮は核実験を繰り返す。「核兵器のない世界」への展望は開けていない。
軍縮の停滞をどうすれば打開できるか。被爆地の願いに接したG7として、常に問い直すことも忘れないでほしい。