<コラム 筆洗>あるラジオ局が政治家に「クリスマスに願うことは」というイン… - 東京新聞(2023年3月27日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/240372

あるラジオ局が政治家に「クリスマスに願うことは」というインタビューをした。一人のある政治家は高価なものは願わない方が無難だろうと、「スリッパ」と答えた。
その政治家、ラジオを聞いた。アナウンサーが言った。「政治家Aさんは地に平和、人には善意と答えました。Bさんはすべての戦争の停止を願いました。Cさんの答えはスリッパでした」
作家の池沢夏樹さんのエッセーにあった小咄(こばなし)を少々、短くさせていただいたが、英国での実話らしい。岸田首相がウクライナのゼレンスキー大統領に「必勝」と書いたしゃもじを贈呈したと聞き、この小咄を思い出したが、やはりそのお土産、スリッパと同じくらい場違いで不適当な答えではなかったか。
しゃもじは首相の地元、広島の特産品で「召し(メシ)捕る」のしゃれとなり、日露戦争の時代から勝利祈願の縁起物である。
ロシアのウクライナ侵攻は無論、許せぬ。ウクライナの抗戦をしゃもじで祈るというのも分からないでもない。それでも落ち着かなくなるのは「召し捕る」のしゃれがひどく好戦的で、もっと戦えとウクライナのお尻をそのしゃもじでたたいているように見えてしまうせいか。少なくとも、そう感じる人がいる。
ウクライナの平和を祈るのなら土産は同じしゃれでもナンテン(難転)の鉢植えぐらいが気は利いていたか。ご地元とは無関係でも。