(卓上四季) 裁判官の身分 - 北海道新聞 どうしん電子版(2021年6月18日)

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明治憲法下で裁判官の独立とその身分の保障を求めて政府と戦った人物がいる。日清戦争後、日本の領有下にあった台湾で初代高等法院長を務めた高野孟矩(たけのり)だ。
現在の福島県新地町の生まれで仙台藩軍として戊辰戦争に従軍したのち、書生を務めた司法大臣大木喬任(たかとう)の推薦で任官。大阪上等裁判所検事や札幌地裁所長判事を経て明治29年(1896年)に台湾に赴いた。
出自も影響したのだろう。台湾では現地の人と日本人を公平に裁くことに注力した。そのためか明治30年には総督が一方的に院長職を罷免する。
高野は裁判官の身分は憲法が保障していると反論し、政府に俸給の支払いを求めて提訴。処分こそ撤回されなかったものの、議会も巻き込む憲法論争を起こし、司法官の身分が憲法で保障されていることを認めさせた。
仙台高裁の岡口基一判事がツイッターで不適切な投稿をしたとして、国会の裁判官弾劾裁判所への訴追が決まった。訴追は9人目で過去7人が罷免されたが、刑事事件の有罪判決や立場を利用した不正行為に限られ、表現を巡っての訴追は異例だ。
不適切な発信ならば、民事訴訟や監督権を通じ解決を図るのが筋だろう。岡口判事が差別的言動や政府に批判的だったことを理由とするようなことがあってはなるまい。裁判官の身分保障は、権力から司法の独立を守るためにある。高野が身命を賭した理由もそこにあろう。2021・6・18関連)

 

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