(地獄耳) 社会にはびこる“森”的なもの…戦い道半ば - 日刊スポーツ(2021年2月8日)

https://www.nikkansports.com/general/column/jigokumimi/news/202102080000068.html

★多くの国民が元首相で東京五輪パラリンピック組織委員会会長・森喜朗の差別的な発言に心痛め、不快感を持ち、あってはならない言動と声を上げた。差別や偏見、パワハラ、セクハラに明確な嫌悪を示す社会が生まれて成熟してくることは国家や社会の成長でもある。先の米国大統領選挙でもイデオロギーの分断のみならず、人種や宗教、性別が民族の絆を破壊していく様を世界中が見せられた。先進的といわれる欧州でも差別や分断は何かの拍子に首をもたげる時もある。

パラリンピックの趣旨は障がい者自身の能力発揮と社会参加の象徴として、また障がい者をめぐる社会環境改善への触媒としての役割が大きい。すべての人がそれぞれの個性を尊重し、生かす社会の実現を否定することもない。オリンピック・パラリンピックを招致する国は経済力や国力だけでなく、この価値観を国民が共有できているという意味で世界中の人たちを招くだけの国民がいることを指す。その意味では森批判は極めて健全な感覚の発露といえる。

★一方、多くの人たちが森発言に不快の声を上げた理由のひとつに、この手の価値観と発言をする人は、いまだにさまざまな業界や身近な社会にはびこっているとの裏返しという見方もできはしまいか。彼らを一掃しようとする声が結集していることも今回の特徴といえる。6日、日本医師会はコロナ対応で医療従事者が「医療機関に勤めていることを理由に美容院などの予約を断られた」「同僚職員が感染した際、近所の人から電話が殺到し嫌がらせを受けた」。医療職であるというだけで「近寄らないで」と言われた。「保育園に子どもを預けるのを拒まれ、仕事を休まざるを得なかった」など医療従事者やその家族などへの嫌がらせや差別は去年10月から12月に確認されただけで全国に700件余りあったと発表した。いまだに続いているし、実態はもっと多いかもしれない。“森”的なものとの戦いは道半ばだ。(K)※敬称略