(余録) 新型肺炎の中国・武漢での感染拡大に小欄が最初にふれたのは… - 毎日新聞(2021年2月9日)

https://mainichi.jp/articles/20210209/ddm/001/070/122000c

新型肺炎の中国・武漢での感染拡大に小欄が最初にふれたのは昨年1月8日だった。まだ武漢からの記事の扱いが小さいころで、新型コロナをいち早く1面に登場させたのはいいが、今考えれば残念なこともある。
中国当局に情報公開を求めた結びの中で、うわさを流した市民が処罰された話にふれている。実はこの市民こそコロナへの警鐘を最初に鳴らした医師・李文亮(りぶんりょう)さんだったのを後で知った。処罰が口封じだったのが分からなかったのだ。
自らも感染した李さんが亡くなって7日で1年となった。中国のソーシャルメディアには李さんの献身的行為への称賛と追悼の書き込みが多数寄せられたという。背景にはその後むしろ厳しさを増す言論統制への反感がうかがえよう。
このコロナ禍にあって献身的な医療人の受難は、強権的な政治権力によるものばかりではない。日本医師会の調査によると、コロナ対応にあたる医療従事者への嫌がらせや差別は昨年10月から3カ月で700件近くにのぼったという。
保育園に子どもを預かれないと言われ、美容院の予約も拒まれる。勤務先で感染者が出れば家に嫌がらせ電話が殺到し、子どもがいじめられる。コロナ治療に熱心な医療機関ほどデマの標的となり、脅迫めいた言葉が届けられる……。
治療に献身すればするほど排撃や差別を招き寄せる理不尽は、わずかでも医療従事者の身になって考える想像力を働かせればすぐに分かるはずだ。まこと文明の弱点を照らし出したコロナの脅威である。