(余録) 退任間近の大統領… - 毎日新聞(2021年1月22日)

https://mainichi.jp/articles/20210122/ddm/001/070/099000c
退任間近の大統領、「早くわが家に戻りたいよ。椅子の背にもたれ、足を机上にのせ、長い昼寝をするんだ」。そう言った後、「でもよく考えると、今とあまり変わりないか」。レーガン米大統領のジョークだ。
77歳で退任したレーガンは在任中の会議でよく居眠りをした。グレートコミュニケーターと呼ばれた彼はそんな自分をジョークのネタにしたのだ。その米大統領の在任高齢記録をさらに1歳上回る78歳のバイデン大統領の就任である。
それまでの就任時の最高齢大統領は前任のトランプ氏の70歳だが、再選を阻まれ自らレーガンの高齢在任記録を抜くことはできなかった。その4年間の施政が分断した「米国」の癒やしと再統合を使命とするバイデン新大統領である。
「この国を一つにすることに私の全霊を注ぐ」。バイデン氏の就任演説は40万人を超す国内のコロナ感染死者への黙とうを呼びかけ、やさしい言葉で歯切れ良く「私に投票しなかった人も含め、すべての国民のために闘う」と訴えた。
さっそく着手したのが、温暖化対策のパリ協定への復帰や世界保健機関(WHO)脱退撤回など国際協調への復帰である。また移民の規制など、前任のトランプ氏が米国にかけた憎悪と偏見の呪いを解く政策転換に次々に署名をした。
レーガンのユーモアが示すように老いは偉大なコミュニケーターであることの妨げにならない。老齢とは衰えのことでなく、対立に橋をかける大いなる知恵の源泉であるのを示してほしい新大統領である。