(筆洗) 定年迫る身となって中学のときの「下敷き」を思い出すのは妙な… - 東京新聞(2020年8月3日)

定年迫る身となって中学のときの「下敷き」を思い出すのは妙な話か。一九七〇年代半ばのことである。
透明のカード入れのような下敷きで、その中にあのころの少年少女は憧れの俳優や歌手の写真をよく忍ばせていた。授業中、ながめて時間を忘れる。知らないとは言わせない。
映画「小さな恋のメロディ」(七一年)のトレーシー・ハイドとマーク・レスターの二人も「女子」の下敷きによく見かけた。英国の映画監督アラン・パーカーさんが亡くなった。七十六歳。「ミッドナイト・エクスプレス」「アンジェラの灰」など数多くの傑作を手掛けた名監督だが、原作と脚本を担当した「小メロ」(当時そんな言い方をした)がまず頭に浮かぶ人もいるだろう。
生まれて初めて書いた脚本だそうだ。コピーライターとして勤めた広告会社が映画製作に進出することになり、突然、脚本を頼まれた。自分の子ども時代の思い出が浮かんだ。恋する少年と少女の物語−
英国、米国では不入りだったが、なぜか日本からたくさんのファンレターが届く。それで日本で社会現象になるほどの大ヒットとなったと知る。
困難な状況にある主人公が希望へと向かう物語に持ち味があった監督である。あの映画の最後は二人がトロッコでどこかへと旅立つ場面だった。感謝と称賛の拍手の中、監督のトロッコが今、目的地に到着したようである。

 


『小さな恋のメロディ』 予告編 Melody(S.W.A.L.K) Trailer 1971年