(筆洗)「平和はどこ?」。探し続けるだけである。あの地図を真っ白にするジグザグ道をあきらめてはなるまい。 - 東京新聞(2016年7月6日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016070602000141.html
http://megalodon.jp/2016-0706-0901-44/www.tokyo-np.co.jp/article/column/hissen/CK2016070602000141.html

友だちの宿題ノートを間違えて家に持って帰ってしまった。宿題ができないと友だちは先生に叱られる。友だちに届けなければ。でも大きな問題がある。友だちの家がどこにあるのかを知らない−。イラン映画「友だちのうちはどこ?」(一九八七年)である。
監督は四日に亡くなったイラン映画の巨匠アッバス・キアロスタミさん。小津安二郎を愛し、イランに上質な映画が存在することを世界に示した方である。
宿題ノートを抱えた少年は出会った大人たちに友だちの家を尋ねるのだが、要領を得ない。何人かは関心さえ示さない。
小高い丘のジグザグ道を駆け上っていく少年。キアロスタミさんがこんなことを言っている。「ジグザグ道は目標にたどり着くことの難しさ、あるいは大切な何かを探すことのシンボルだ」
一枚の地図がある。英国当局が最近作成したテロ危険度を示す地図。世界中ほとんどの地域が危険の高い赤かそれに次ぐオレンジで塗りつぶされている。日本でさえ、ローリスクを示す黄色。つまり、リスクはゼロではない。
真っ白な場所はわずかに南極、それに北極圏のスバルバル諸島(ノルウェー領)ぐらいである。イスタンブールダッカバグダッド…。耳を塞(ふさ)ぎたくなるテロ事件が続く。「平和はどこ?」。探し続けるだけである。あの地図を真っ白にするジグザグ道をあきらめてはなるまい。

イラン映画「友だちのうちはどこ?」(1987年)