(私説・論説室から) 拡散する民族間の憎悪 - 東京新聞(2020年8月3日)

https://www.tokyo-np.co.jp/article/46651

カフカスアゼルバイジャンアルメニアの国境地帯で先月から軍事衝突が続き、双方に死傷者が出ている。旧ソ連構成国の両国はアゼルバイジャンのナゴルノカラバフ自治州の帰属をめぐり民族紛争を起こしたが、今度の衝突は別の地域で起きている。
軍事衝突の衝撃は世界に波及した。モスクワ、ロサンゼルス、ロンドンなどで両国の移民同士が衝突。モスクワでは双方の移民が営む商店やレストランを襲撃し合った。両民族間の憎悪は拡散している。
周辺の関係国は懸念を深める。ロシアのラブロフ外相は両国外相と個別に協議し調停を図った。ロシアはアルメニアに軍を駐留させ、アルメニアの安全保障を大きく担っている。一方でアゼルバイジャンとの関係が悪化することは望んでいない。
トルコはアゼルバイジャンの友好国だ。一方、一世紀前にオスマン帝国下で起きた虐殺事件がとげとなって残るアルメニアとは外交関係がない。そのトルコとライバル関係にあるイランはアルメニアとは親密だ。カフカスは周辺国の思惑と利害が交錯する。
軍事衝突には、コロナ禍で高まる国民の不満のガス抜き作用があるという見方も。だが、双方が原発やダムを攻撃する構えをちらつかせ挑発し合っている。刺激を受けた民族感情が暴走すれば、思わぬ事態に発展する危険性は否定できない。 (青木 睦)