「わたしは、ダニエル・ブレイク」で復帰 ケン・ローチ監督 - 東京新聞(2017年3月16日)

http://www.tokyo-np.co.jp/article/entertainment/news/CK2017031602000195.html
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「僕は映画を作れることが特権だと思っている。たやすく『もういいや』というものではない」。英国映画界の巨匠ケン・ローチ監督(80)が最新作「わたしは、ダニエル・ブレイク」の公開(18日)を前に、インターネット電話サービスで、本紙のビデオインタビューに応じた。一貫して社会的弱者に寄りそい、前作「ジミー、野を駆ける伝説」で引退を表明した巨匠。広がる格差や貧困の問題に黙っていられず、再びメガホンを取った。 (鈴木学)
舞台は英国。心臓を患い働くことを止められた大工のブレイク(デイブ・ジョーンズ)は国の支援手当を受けようとするが、目に見える障害はなく「就労可能」と判断される。シングルマザーのケイティ(ヘイリー・スクワイアーズ)と知り合い絆を強める一方で、手当を受けるための複雑な制度に翻弄(ほんろう)される。尊厳を傷つける扱いに怒りを爆発させて叫ぶ。「わたしはダニエル・ブレイクだ」
監督は言う。「雇用は安定せず、貧困層はより貧困になる。今のシステムは、人が尊厳を持った生活ができるよう全然サポートしていない。僕は大きな構造の変化が必要だと考えている。唯一の答えは社会主義じゃないかと思うんだ」。顔は至って真面目だ。
システムのゆがみは英国に限ったことではない。監督は劇中の端々に“希望”を見いだす。貧しい人に無料で食べ物を提供する「フードバンク」で見られる心の広さや、ブレイクとケイティの間に生まれる友情、仲間意識だという。
「ただ、それだけではダメ。心の広さや理解を政治にいかに反映させるかが大事で、そのために、われわれは一つにまとまっていかなければならない。労働者にとっての希望は左翼系がリーダーを取ることだが、選挙で勝てなければ、労働者の分断につながる政策を採る右翼の世界になっていく」
本作は昨年のカンヌ国際映画祭で最高賞「パルムドール」を獲得。アイルランド独立戦争とその後の内戦を描いた「麦の穂をゆらす風」(二〇〇六年)に続き、自身二度目の受賞となる。
「今後のことはプロデューサーや脚本家と話し合って決めたいと思っている。映画製作はメンタルや体力を求められるから続けられるのかと考えてしまうけど、興味のテーマやストーリーは何百とあるよ」。まだまだ意気軒高である。