特措法と放送局 介入の危うさあらわに - 信濃毎日新聞(2020年3月18日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200318/KT200317ETI090007000.php
http://archive.today/2020.03.19-002637/https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200318/KT200317ETI090007000.php

放送、報道の自由をめぐって特別措置法が持つ根本的な危うさがあらわになったと見るべきだろう。「指定公共機関」についての政府の国会答弁である。
先週成立した新型コロナウイルス特措法は、指定公共機関としてNHKなどを明示するほか、公益的な事業を営む法人を別途「政令で定める」としている。民放各局も対象となる余地がある。
特措法に基づき緊急事態宣言を発令した際、首相は指定公共機関に「必要な指示」ができる。内容は限定されていない。放送局が政府からの独立を保てず、報道の自由が損なわれる恐れがある。
NHKに加えて民放を指定公共機関と定め、放送内容に指示を出すことはあるのか。野党議員の質問に政府の説明は揺れた。
「法の枠組みとしては、指定して指示を出せる」。宮下一郎内閣府副大臣衆院長野5区)の衆院法務委員会での答弁が発端だ。放送内容の変更や差し替えてもらうこともあり得るとした。
政府はその後、民放は指定しないと説明を修正。16日の参院予算委で安倍首相は、指示の対象にはならないことをあらためて明確にすると述べている。宮下氏は「誤った答弁」を陳謝した。
ただ、政府がどのように説明しても、宮下氏の最初の発言の通り、法律上、民放を指定公共機関に加えることは可能だ。政令一つで放送が広く統制の下に置かれる懸念は消えない。
放送番組は法律に定める権限に基づく場合でなければ何人からも干渉されない―。放送法が定める番組編集の自由は、放送の自律と自由に欠かせないが、特措法により政府は、介入の根拠となる「法律に定める権限」を手にする。
既存法を改定した特措法はわずか3日間の審議で成立した。緊急事態を宣言する要件は不明確で、市民の行動や活動を縛る強力な人権制限法になりかねない危うさもはらむ。なぜそれほど急ぐ必要があったのか。国会は立法府としての責任を果たしていない。
安倍政権下、放送への圧力はかつてなく強まった。自民党は選挙報道の「中立公平」を各局に要請し、総務相は、番組が「政治的公平」を欠く場合、電波停止を命じる可能性にまで言及している。
特措法をめぐっても、民放の報道に、政府はSNSで番組を名指しして“反論”した。緊急事態を大義名分に、放送、報道の自由が圧迫されることがあってはならない。特措法の運用に厳しい目を向けていく必要がある。