(放送法見直し)偏向助長 撤回は当然だ - 沖縄タイムズ(2018年4月17日)

http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/238680
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政府の規制改革推進会議が16日、放送改革の検討課題を公表した。政府がまとめた内部文書で番組の政治的公平性を定めた放送法4条撤廃をはじめ「放送事業の大胆な見直し」を打ち出していたが、ほとんど盛り込まれなかった。
放送法4条の撤廃は、唐突に出てきたもので、偏向報道を助長しかねないと民放はもちろん政府・与党からも反対の声が噴出していた。
拙速であり、事実上の撤回は当然である。
政府の「大胆な見直し」はNHKを除き、放送法の規制をなくし、民放とネット動画配信サービスを同じ扱いにする構想だ。放送(民放)は基本的に不要とし、放送法4条などを撤廃する内容だ。
放送法4条は放送する番組の編集について(1)公安及(およ)び善良な風俗を害しない(2)政治的に公平である(3)報道は事実をまげないでする(4)意見が対立している問題はできるだけ多くの角度から論点を明らかにする−ことを求めている。
撤廃すれば規制緩和で競争を促し、多様な番組の提供につながるように見えるが、むしろ事実に基づかずに制作した番組がはびこる懸念が拭えない。基地反対運動を取り上げた東京MXの「ニュース女子」がそうだ。NHKと民放各社でつくる第三者機関、放送倫理・番組向上機構BPO)から重大な放送倫理違反や人権侵害を指摘された。
フェイク(偽)ニュースやヘイトスピーチ(差別扇動表現)の氾濫が現実のものとなることが容易に想像できる。

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放送法4条は本来、放送を規制するものではなく、放送の自由を守るためのものだ。放送局が自律的に努力する「倫理規範」と捉えるのが専門家の定説である。
だが、安倍政権は政治介入の口実に使ってきた。2016年に当時の高市早苗総務相が、政治的な公平性を欠く放送を繰り返し放送したと政府が判断すれば、電波停止を命じる行政処分の可能性に言及したことは記憶に新しい。
都合良く使っていた4条を安倍晋三首相はなぜ、撤廃しようとするのか。ネット動画配信サービスの「AbemaTV」の「成功体験」が忘れられないのではないか、との見方がある。昨年の衆院選直前に出演し、放送法にこだわらず、持論を繰り広げることができたからである。
森友、加計学園問題などで安倍政権が揺らぐ中、「報道にいら立ち、政府の意向を代弁する放送局をつくりたいのでは」と民放幹部らは推し量る。政権が都合良くメディアコントロールをしようとしているなら危険極まりない。

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この日の規制改革推進会議に出席した安倍首相は放送制度の枠外であるインターネットテレビの台頭を踏まえ、「放送と通信の垣根はどんどんなくなっている。改革に向けた方策を議論すべき時期に来ている」と意欲を示した。
9月の自民党総裁選の結果次第では、4条撤廃が再燃する可能性もあるだろう。
国民の知る権利と民主主義の基盤にかかわる問題だ。規制改革推進会議という国民の知らないところで決められることがあってはならない。