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国会による事前の承認が不要なら、政府の独断専行を許してしまう。私権の制約を可能にする重要な法律を、ろくに審議もせずに決めてしまうのはあまりにも拙速だ。
新型コロナウイルスのさらなる感染拡大に備え「緊急事態宣言」を可能にする新型インフルエンザ等対策特別措置法改正案が11日の衆院内閣委員会で、与党と立憲民主、国民民主両党などの賛成多数で可決された。
特措法の適用対象に「新型コロナウイルス感染症」を追加する改正である。施行後、首相が緊急事態宣言を発令すれば、都道府県知事は外出自粛や、学校の休校、多くの人が集まる興行施設の利用制限などを要請できる。正当な理由もなく要請に応じないときは「指示」ができる。
一定の条件を満たせば、臨時の医療施設を開設するため土地・建物を強制使用したり、医薬品や食品など必要な物資を収用したりすることも可能になる。
改正案を担当する西村康稔経済再生担当相は、宣言を「伝家の宝刀」と強調する。だが、制度が恣意(しい)的に運用されてしまう懸念は拭えない。要件が明確ではないからだ。
衆院内閣委は、緊急事態宣言に関し、やむを得ない場合を除いて国会へ事前に報告することを盛り込んだ付帯決議を可決したが、不十分だ。人権に関わる措置を発するのだから、最低限、国会による民主的なチェックは欠かせない。
新型コロナ対策を巡っては、安倍晋三首相の指示による全国の小中高校への休校要請や中国、韓国からの入国制限強化など、場当たり的な対応が混乱を引き起こした。
特措法の改正はこうした専断に法的な裏付けを与えることになり、混乱を助長する恐れがある。科学的な根拠もなく思いつきのように緊急事態宣言が発せられることがないと誰が言い切れるだろう。
緊急事態では、首相や都道府県知事がNHKを含む「指定公共機関」に指示できる規定もある。指定公共機関は追加が可能だ。報道の自由を脅かしかねない。これは決して根拠のない不安ではない。
内閣官房国際感染症対策調整室は、テレビの情報番組の出演者が特措法改正に関し「首相が『後手後手』批判を払拭(ふっしょく)するため」と述べたとして「そうではありません。あらゆる事態に備えて打てる手は全て打つとの考え」と公式ツイッターで反論した。
国家権力による圧力であり、自由な言論を妨げる行為だ。民主政治の基盤として特に重要な「表現の自由」への理解が乏しい。そのような政府を信頼するのは難しい。
首相主催の「桜を見る会」を巡る数々の疑惑、法解釈変更による東京高検検事長の定年延長問題などを見ても、「法の支配」を軽視する安倍政権の姿勢は鮮明だ。
政府の独断専行を招く恐れがある法制度は危うい。性急な改正は禍根を残す。