改正特措法成立 「緊急事態」懸念拭えぬ - 北海道新聞(2020年3月14日)

https://www.hokkaido-np.co.jp/article/402230

改正新型インフルエンザ等対策特別措置法がきのう成立した。感染の拡大が続く新型コロナウイルスを適用対象に加えた。
首相が「全国的かつ急速なまん延で、国民生活や経済に甚大な影響を及ぼす」などと判断すれば、区域と期間を定めて緊急事態宣言を発することが可能になった。
対象の都道府県知事はイベント停止の指示や土地の強制使用など私権制限を伴う措置を取れる。
国民の基本的人権を制約する強権発動で感染拡大を食い止めようという非常手段だ。発動には極めて慎重な判断が求められる。
万が一にも宣言せざるを得ない事態とはどんな場合か。「甚大な影響」などの曖昧な要件を明確化して歯止めをかけることが求められていたが、衆参計3日間の審議で抜本改正はされなかった。
宣言の乱用や恣意(しい)的運用に懸念を残したと言わざるを得ない。
委員会の審議では公明党からも緊急事態の要件が「客観性、定量性に欠け、恣意的判断もされやすい」との指摘が出た。
西村康稔経済再生担当相は「基準を示すのはなかなか難しい」と述べたが、想定される事態の具体例ぐらいは示せたはずだ。
野党は宣言に国会の事前承認を義務付ける修正を求めたが、与党は拒否した。付帯決議で国会への事前報告が盛り込まれたが、法的拘束力はなく歯止めにほど遠い。
採決で野党側は立憲民主党、国民民主党などが賛成し、共産党は反対した。立憲などには、特措法が民主党政権で制定された経緯もあってか、徹底審議を求める姿勢が欠けていたのは残念だ。
決議には緊急事態宣言に際し専門家の意見を聴取することが記された。本来なら法律に明記して、手続きを透明化すべきものだ。
安倍晋三首相も国会などで、宣言は「専門家の意見を頂く中で検討したい」と述べてはいる。
だが、政府の基本方針になかった大規模イベントの自粛や全国一斉休校の要請を独断で行ってきた首相の言葉には信を置きかねる。
しかも検察官の定年延長問題のように「法の支配」を軽んじ、特定秘密保護法や「共謀罪」法など基本的人権を侵しかねない法律を強引に押し通してきた政権だ。
後手に回ってきた政府の対策への批判をかわすために「果断な措置」をアピールしようと、根拠の乏しい緊急事態宣言に踏み切り、社会の不安と混乱を助長する―。
首相がそんな行動に出ないように、与党も厳しく監視すべきだ。