[新型コロナ特措法]必要性の議論不十分だ - 沖縄タイムス(2020年3月7日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/543988
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本当に特措法改正が必要なのか、徹底議論が必要だ。
安倍晋三首相は野党党首と会談し、新型コロナウイルスの感染拡大防止に向けた新型インフルエンザ等対策特別措置法改正への協力を求めた。
安倍首相は一斉休校要請などで専門家の意見を聞かず「唐突」「場当たり的」などと批判されている。今回の法改正も専門家から知見を得た形跡はない。必要性の議論が不十分なのである。
改正法は、新型インフルエンザや、過去に世界的に流行した再興型インフルエンザ、新感染症を対象とする現行法に、「新型コロナウイルス感染症」を追加するものだ。
成立・施行されれば、(1)国民の生命及(およ)び健康に著しく重大な被害を与えるおそれがある(2)全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又(また)はそのおそれがある-との要件を満たせば政府は対象地域や期間を定め、緊急事態宣言を出すことができる。
ただ要件はあいまいで、恣意(しい)的な運用が懸念される。
宣言されると、知事は外出自粛や学校の休校、興行施設の利用制限などを要請・指示できる。医薬品や食品などの所有者が売り渡し要請に応じない場合は収用できる。運送事業者には緊急物資の輸送を要請・指示できる。病院が不足すれば、臨時の医療施設を開設するため土地や建物を所有者の同意なく使用できる。
憲法で保障された基本的人権の侵害につながりかねず、宣言は慎重の上にも慎重を期さなければならない。

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特措法は2009年に流行した新型インフルエンザ(H1N1型)の流行を踏まえ旧民主党政権時代の12年に成立。この特措法に関連して日弁連は「人権に対する過剰な制限がなされる恐れがある」と反対声明を出した。
政府が取っている学校の休校要請やイベントの開催自粛は事実上、現行法に基づいた措置だ。厚生労働省は特措法の実施要綱を改正、「新型インフルエンザ等」と「等」を加え、新型コロナに対応している。特措法改正との整合性が取れないのである。
政府の新型インフルエンザ等対策有識者会議の会長代理を務めた岡部信彦氏は国会で特措法に「等」が付いているとして現行法が適用できると強調した。岡田晴恵白鴎大教授(感染免疫学)はテレビで新型コロナを新感染症に指定する手続きをやり直せば現行法が運用できると主張する。

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安倍首相が特措法改正にこだわるのは、野党を抱き込んだ方が得策との思惑と同時に改憲への地ならしを狙っているのではとの疑念が消えない。自民党から「新型肺炎憲法改正の大きな実験台」との発言があったからだ。自民党憲法改正案に緊急事態条項を盛り込み大規模自然災害の場合などで首相が緊急事態宣言し、内閣に権限を集中する考えを提示している。
政府は特措法改正案を13日にも成立させたい意向だ。新型コロナは感染力は強いが、多くの感染者は軽症である。なぜ今頃になって改正法なのか。政府には説明責任がある。議論を尽くすべきだ。