新型コロナ 特措法成立 「緊急事態」にせぬ努力を - 毎日新聞(2020年3月14日)

https://mainichi.jp/articles/20200314/ddm/005/070/092000c
http://web.archive.org/web/20200314002531/https://mainichi.jp/articles/20200314/ddm/005/070/092000c

新型コロナウイルスに対応する改正特別措置法が成立した。与党に加え、野党の立憲民主党や国民民主党などが賛成した。
これにより、首相が緊急事態宣言を発令できるようになった。その内容は、強制力の強い措置を含む一種の非常事態対応だ。
宣言が出されれば、都道府県知事は外出自粛や、学校・映画館など多くの人が集まる施設の使用制限を要請できる。国民の権利制限を伴う。
このため国会審議では、宣言が恣意(しい)的になされないよう歯止めがかけられるかが焦点だった。
改正法は、緊急事態の要件を「まん延のおそれ」と「生命・健康への重大な被害のおそれ」と定めている。政府は「まん延」について「相当数の都道府県で患者クラスターが確認される」などと説明したが、あいまいさが残る。「重大な被害」の定義も議論が進まなかった。
緊急事態の判断にあたっては、専門家の意見を聴取することが与野党協議で付帯決議に盛り込まれた。だが、本来は法に明記すべき事柄だ。野党が求めた国会の事前承認については、事前報告にとどまった。全体として歯止めは不十分だ。
改正前の新型インフルエンザ等対策特措法が成立した2012年には、権利制限に対する不服申し立ての仕組みを検討するよう付帯決議がされていたが、今回も検討は見送られた。必要な対応を取るべきだ。
安倍晋三首相は現状が緊急事態にあたるかについて「まだ、そういう事態ではない」と答弁している。
しかし国民に不安が広がると、政権は強いメッセージで求心力を確保しようとしがちだ。首相は臨時休校要請などを唐突に打ち出してきた。自民党内では憲法に「緊急事態条項」を加えようという議論がおきた。
特措法は制御不能な最悪の事態への備えだ。宣言を出せば、感染拡大の防止に失敗したことを国内外に示すことになり、重い意味を持つ。冷静かつ客観的に、必要性を判断しなければならない。
今は、感染拡大をくい止めることが第一だ。医療体制を整えれば、感染が一定程度広がっても最悪の事態を避けることができる。
「緊急事態」に至らせないための対策にこそ、力を注ぐべきだ。