特措法改正 懸念の解消なお遠い - 朝日新聞(2020年3月12日)

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新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正案が衆院内閣委員会で可決された。本会議を経て参院に送られ、あす13日に成立する運びとなっている。
法の適用対象に新型コロナウイルスを加えるための見直しだが、今回の事態を受けて浮上した現行法の不備もあわせて正し、遺漏の無いようにしようという正論は、「今は緊急を要する」との声に抑え込まれてしまった。遺憾と言うほかない。
そのひとつが、首相が緊急事態を宣言する際の手続きだ。
宣言がされれば各知事の権限で、▽外出の自粛要請▽イベントの開催制限や緊急物資の輸送の要請・指示▽医薬品、食品、燃料の販売の要請・収用――などができるようになる。
野党は、学識者から意見を聴いたり、事前に国会承認を得たりすることを、宣言の要件にすべきだと主張した。だが与党と折衝の結果、法案は修正せず、「国会へ事前に報告する」「与野党の意見を尊重して施策の実施にあたる」などを付帯決議に盛り込むことで決着した。
市民の権利を制限し、社会全体に閉塞(へいそく)感をもたらす重大な措置だ。政府は決議の趣旨を十分酌んで行動するとともに、発動の基準をあらかじめ国民に示しておく必要がある。
特措法に基づく現行政令は、この基準を「重篤症例の発生頻度が通常のインフルエンザに比べて相当程度高い場合」と定めるだけで、解釈の幅が広い。全国知事会も対象区域をどう設定するかの考え方を含め、より明確にするように求めている。
重症化率や致死性、地域での流行の具合、医療機関の切迫状況など、数値化できるものは極力そうして客観性・透明性を保つことが、社会不安を抑えることにもつながる。そのうえで、様々な分野の識者の意見を踏まえて最終的に判断する。改めて言うまでもないことだ。
このような注文をするのは、一連の政治改革によって行政の権限が強化される一方で、安倍首相を始めとする政権幹部らが「法の支配」への理解を著しく欠く行いを重ねてきたからだ。
新型コロナウイルスへの対応をめぐっても、専門家の意見を聴かず、唐突にイベントの自粛や全国一斉休校を打ち出した。政府自身が直前に定めた基本方針にも書かれていない措置だった。だが首相は詳しく説明することをせず、混乱を現場に丸投げした。その後、減収となる人たちへの手当てなどに乗り出したが、深い不信が残った。
きのうの内閣委で特措法担当相の西村康稔氏は「できる限り丁寧に」「慎重に判断」を繰り返した。これをリップサービスに終わらせてはならない。