https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200305/KT200304ETI090009000.php
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保釈された被告らの逃走を防ぐにはどんな法整備が必要か。森雅子法相の諮問を受けて法制審議会が検討を始めている。
保釈は、起訴後に勾留されている被告を釈放する手続きだ。被告や弁護人が請求し、裁判所が証拠隠滅の恐れを考慮して検察官の意見を聞き判断する。
保釈になれば、被告は社会生活を続けながら公判に臨むことができる。制度の趣旨を踏まえて議論を進めたい。
裁判所は、2009年の裁判員裁判の導入を機に、保釈を認める方向へ運用を変えつつある。
全国の地裁や簡裁が一審終結までに保釈を許可した割合(保釈率)は、09年で15・6%だったが、18年は32・1%と倍増した。
同時に、逃げたり条件を守らなかったりして保釈を取り消される人も増えている。18年は09年の3倍以上の127人に上った。
昨年は神奈川県や大阪府で逃走事件があり、年末には前日産自動車会長のカルロス・ゴーン被告が海外に逃亡している。
このまま放置するわけにはいかない。新たな状況に応じた制度や運用の見直しは必要だ。
論点の一つに、衛星利用測位システム(GPS)による行動監視の是非がある。
保釈の際、被告の身体に装置を取り付け、位置情報を常時把握する。欧米で導入例がある。
法務省は「直接的な逃亡防止対策になる」と期待する。肯定的な専門家も少なくない。
一方で、精神的な拘束につながりかねず、プライバシー保護の面からも懸念を示す声がある。誰がどんな手段で監視するのかやコストも課題になるだろう。
導入されれば、保釈条件として装置装着が安易に広がる恐れがある。問題点の丁寧な洗い出しと、慎重な議論が欠かせない。
法の不備も論点に上がっている。刑法や刑事訴訟法には、保釈中の被告が逃走したり裁判所の呼び出しに応じず出頭しなかったりした場合の罰則規定がない。
逃走を防ぐため保釈保証金を預かるが、15億円を納めたゴーン被告に効果はなかった。
日本では、長期に身柄を拘束する捜査が当たり前のように行われてきた。罪を認めないとなかなか保釈されない現状もあり、「人質司法」と批判されている。
被告の人権を守るには、刑事手続き全般の見直しが必要だ。法制審議会には、逃走防止策にとどめず、保釈のあり方まで踏み込んだ議論を求めたい。