新出生前診断 立ち止まり幅広い議論を - 信濃毎日新聞(2019年6月26日)

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胎児の染色体の異常を検査する新出生前診断について、実施できる医療機関の拡大を図る日本産科婦人科学会の方針に“待った”がかかった。厚生労働省が近く、検討会を設ける。
産科学会は3月に新たな指針案を取りまとめたが、議論は公開されず、不透明な形で方針転換が決まった。関係する日本小児科学会や日本人類遺伝学会からも、独走への強い批判が出ていた。
胎児に異常が見つかったときどうするか。「命の選別」につながりかねない検査である。歯止めなく広がるのは避けなければならない。公の場で議論し、方向を見定めていくことが重要になる。
妊婦の血液に含まれる胎児のDNAからダウン症など3種類の染色体異常を調べる。国内では2013年に臨床研究として始まり、実施施設には、遺伝の専門医らによるカウンセリングをはじめ厳格な条件を課してきた。
新指針はこれを大幅に緩和し、研修を受けた産婦人科医がいれば開業医でも検査できるようにする。現在、大学病院など90カ所ほどにとどまる実施施設が一気に拡大する可能性があった。
背景にあるのは、学会の認定を受けずに実施する施設の急増だ。採血して検査会社に送ればいいため、形成外科医や精神科医が手がける場合もあるという。妊婦の年齢を区切らず、3種類以外の染色体異常も調べるところがある。
産科学会の新指針は、その実態に引きずられて、むしろなし崩しに出生前診断を広げる懸念があった。法や国の指針によって規制すべきか。議論が必要だ。
採血するだけで母体にも胎児にも危険はないからと検査が一般化すれば、妊婦が周囲から陰に陽に重圧を受けかねない。検査で障害があると分かったのになぜ産むのか、育てるなら自己責任だ、といった風潮が広がる怖さもある。
生命倫理や人間の尊厳に関わる重大な問題をはらんでいる。認定施設での検査を経て胎児に異常があると分かった妊婦の9割が中絶を選んでいる実態にも向き合って考える必要がある。
医療関係者や学会だけに判断を委ねられない。子どもを産むか産まないかは、女性の自己決定権にも関わる。政府が前面に出て議論を方向づけるべきではない。
厚労省は検討会に、人文科学を含む広い分野の専門家を集めるとともに、市民との対話の場を設けてほしい。多くの人が目を向け、社会の合意を形づくっていくことが欠かせない。