裁判記録の保存 後世の検証へ一歩前進 - 京都新聞(2020年2月22日)

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記録保存へかじを切ったのは、一歩前進に違いない。
東京地裁が民事裁判記録の保存要領を作成し、永久保存の範囲が大きく広がった。憲法訴訟をはじめ歴史的な重要裁判でさえ、記録が無分別に捨てられてきた運用を改める契機としてもらいたい。
一審で自衛隊違憲判決が出た長沼ナイキ訴訟など、戦後の憲法裁判の記録が多数廃棄されていたことが発覚し、最高裁は昨年11月、全国の裁判所に民事裁判記録の廃棄を一時停止するよう指示した。
最高裁の規定では、判決文は50年保存だが、裁判記録は確定・和解後5年間、一審の裁判所で保存し廃棄される。一方で重要な憲法判断や判例、社会の耳目を集めた裁判など「史料または参考資料」になる裁判記録は「特別保存」するよう義務付けている。
ところが、運用は各裁判所に委ねられ、代表的な憲法判例集に掲載された裁判記録137件を巡る調査で、保存はわずか18件。規定に反して8割以上の118件が廃棄され、不明も1件あった。
判決など結論文書は残されていたものの、原告や被告が出した書類、法廷でのやりとりなど審理過程の文書は失われ、裁判所が当事者の訴えをどう受け止め、どう結論を導いたのか、後世の検証は不可能だ。米国などで多くの裁判記録が永久に保存、公開されているのに比べ、安易な廃棄が常態化していたのは残念と言うほかない。
東京地裁の新要領は、最高裁判例集に載ったり、主要日刊紙2紙以上が記事化した裁判などを特別保存の対象とする。これとは別に、外部からの保存要望を裁判官らで構成する選定委員会で検討する手続きも定めた。
裁判と同様に、その記録も広く公開されるのが原則であり、研究者らが容易に閲覧、活用できる環境の整備が不可欠だろう。保存された裁判記録のデジタル化や、検索しやすいベータベース化、インターネットを通じた情報開示など課題はたくさんある。
さらに文書管理を徹底するには、実際に裁判記録を取り扱う書記官らが公文書管理の重要性を学ぶ研修の充実が必須と言えよう。
戦後日本社会の在り方を論じてきた訴訟に関する記録の価値は計り知れない。単なる裁判所の資料ではなく、国民の知る権利に応える貴重な共有財産であることは言うまでもない。最高裁は地裁任せにせず、裁判記録の保存や公開など総合的、統一的な管理ルールの策定を急ぐべきである。