(余録) 国会で首相のヤジがやまない… - 毎日新聞(2020年2月17日)

https://mainichi.jp/articles/20200217/ddm/001/070/126000c
http://archive.today/2020.02.17-003806/https://mainichi.jp/articles/20200217/ddm/001/070/126000c

国会で首相のヤジがやまない。もはやうっかりではないのだろうとさえ思えてくる。一昨年は秘書官まで尻馬に乗りヤジを飛ばした。演説を書く側近なので「首相と一心同体の気持ちで仕事している」と擁護された。
官僚たちは今、どんな気持ちで働いているのだろう。文書破棄・改ざんの釈明、政府高官の男女がひと続きの部屋に泊まったかどうかの確認、官邸の意向に沿った法解釈の変更……。新卒の官僚志望者が減っているのも当然だろう。
羽毛田信吾さんは厚生事務次官を退く時、記者に心境を「公務員生活を顧みて、ひとすじの純情を保ち得たかを自らに問うている」と述べた。貧乏と向き合う仕事がしたい。素朴な動機で役所に入ったが、そう単純には務まらない。
仕事の多くは制度を維持するため、国民に厳しい選択を迫ってきたのではないか。常に心の隅で、何のための制度かと自問し続けたこだわりを表現した。後から物知りに「演歌だね。一点の素心と言いなさい」と教えられ苦笑した。
その後、宮内庁次長・長官として11年、平成の天皇、皇后両陛下に仕えた。折節に由(よし)なしごとをつづった随筆集「言うて詮(せん)なきことの記」を読むと、純情は歴史、自然、世相など森羅万象へのまなざしに培われていたのだと分かる。
確定申告が始まる。先週ある税務署で、領収書を手に訴える人が若い職員から無言で長い間にらまれ、ついに退散するのを見た。権力は出先の窓口に宿る。役人の皆さん、公僕を志した初心を保ち得ていますか。