[検事長人事と解釈変更]「法治国家」を揺るがす - 沖縄タイムス(2020年2月16日)

https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/535501
http://web.archive.org/save/https://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/535501

検事総長に据えるため、積み重ねてきた法解釈の変更も厭わない。これで「法治国家」といえるのだろうか。強い危惧の念を抱かざるを得ない。
政府が黒川弘務東京高検検事長の63歳定年を誕生日直前になって半年間延長することを閣議決定した問題である。検察庁法では検事総長は65歳定年、それ以外の検察官は63歳定年と定めている。延長の規定はない。
安倍晋三首相は13日の衆院本会議で閣議決定に当たって安倍内閣として従来の法解釈を変更したことを明らかにした。安倍内閣の一方的で恣意(しい)的な変更に驚くほかない。
国家公務員法(国公法)改正案を議論した1981年、人事院幹部は「検察官には適用されないことになっている」と明快な答弁をしていた。人事院は現在も同じ解釈を維持しているが、最終的な判断を法務省に投げた。
安倍首相は答弁で、当時は検察庁法によって適用除外されていたことを認めた。その一方で、検察官も一般職の国家公務員であるため、検察官の定年延長に国公法の規定が適用されると解釈変更したことを説明した。
これでは法解釈の変更をすれば、何であれ政権の思い通りになるだろう。「法治国家」の根幹を揺るがしかねないものと言わざるを得ない。
検察庁は「検察の理念」として「厳正公平、不偏不党を旨として、公正誠実に職務を行う」ことを掲げている。
厳正公平、不偏不党に疑念が持たれれば、国民の信頼はとても得られないだろう。

■    ■

安倍首相は解釈変更を連発してきた。歴代政権が内閣法制局の判断に基づき憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を長官をすげ替えて憲法解釈を変更した。
辺野古新基地を巡ってもそうだ。県の埋め立て承認「撤回」に対し、防衛省沖縄防衛局は一般国民の権利救済が目的の行政不服審査法で同じ内閣の国交相に審査申し立てをした。法の趣旨に反するのは、多くの行政法学者が厳しく批判したことからもわかる。
漁業権が設定された海域での工事は県から岩礁破砕許可を得なければならない。政府は名護漁協が漁業権を放棄したため必要ないと主張。水産庁は従来「漁協の放棄決議で漁業権がなくなるものではない」との見解を示していたが、官邸の意向で政府見解に追随したとされる。
解釈変更で法を骨抜きにするのであれば「法治国家」とはとても呼べない。

■    ■

なぜ安倍首相は法解釈を変更してまで検事長の定年延長の閣議決定をしたのだろうか。黒川氏は菅義偉官房長官と関係が近く、定年延長は検事総長ポストを念頭に置いているとみられる。
首相主催の「桜を見る会」や、会の前夜に開いた夕食会について市民団体や大学教授らが、公職選挙法違反や政治資金規正法違反などの容疑で安倍首相に対する告発状を東京地検に提出している。
検事長人事は検察をコントロールしようとの狙いがあるのではないか、と疑われても仕方がない。安倍首相は閣議決定を撤回すべきだ。