検察官の定年 法の支配の否定またも - 朝日新聞(2020年2月16日)

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法の支配の何たるかをわきまえず、国会を軽んずる政権の体質がまたもあらわになった。
東京高検検事長の定年延長問題をめぐり、安倍首相は13日の衆院本会議で、従来の政府の見解を変更し、延長が許されると「(法律を)解釈することとした」と答弁した。
政府は、唯一の立法機関である国会が定めた法律に基づき、行政を運営する責務を負う。詳しい説明もないまま、内閣の一存で法律を事実上書き換える行為が許されるはずがない。
先月末、異例の定年延長が閣議決定されると、検察の首脳人事を思いのままにしようとする政権の暴挙との批判が巻き起こった。あわせて、検察官の定年年齢は検察庁法に明記されており、閣議決定は違法だとの声が国会の内外で上がった。
政府は、定年延長の規定がある国家公務員法を持ちだして、問題はないと主張した。だが、その規定が導入された1981年の国会審議で、政府自身が「検察官には適用されない」と説明していたことが、野党議員の指摘で明らかになった。
衆院予算委員会でこの点を問われた森雅子法相は「詳細は知らない」と驚くべき発言をし、それでも延長できると言い張った。人事院の幹部が、現在も81年当時と同じ解釈だと答弁しても、姿勢を変えなかった。さすがにこのままでは通らないと思ったのか、首相は過去の政府見解を認めたうえで、今回、解釈を変更したと言い出した。ドタバタ劇も極まれりだ。
制定経緯を含め、法律の詳細を検討した上での閣議決定だったのか。人事院内閣法制局から疑義は呈されなかったのか。機能不全を疑う事態だ。
何のために国会で手間ひまをかけて法案を審査するか、政権は理解しているのだろうか。
法案提出者の説明を通じて、国民の代表がその必要性や趣旨を点検し、あいまいな点があれば解釈の確定に努め、場合によっては修正する。質疑の中で示された見解は条文と一体となって人々や行政機関を縛り、行動の指針になる。裁判で判断を導き出す際にも参考にされる。
ましていま問題になっているのは、強大な権限をもつ検察官の資格や職務を規定し、国民の統制の下に置くために設けられた検察庁法である。定年延長を実施しなければならない事情があるのなら、当然、法改正の手続きを踏むべきものだ。
安倍政権には、積み重ねてきた憲法解釈を一片の閣議決定で覆し、集団的自衛権の行使に道を開いた過去がある。今回の乱暴な振る舞いも本質は同じだ。民主主義の根幹を揺るがす行いを、認めることはできない。