アカデミー賞 心蝕む格差と向き合う - 東京新聞(2020年2月11日)

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韓国映画「パラサイト 半地下の家族」がアカデミー賞で四冠に輝いた。しかも英語以外では初の作品賞受賞という快挙。世界を蝕(むしば)む格差社会の醜さと残酷性を容赦なく映像化した記念碑的作品だ。
「パラサイト」は昨年、カンヌ国際映画祭の大賞にあたるパルムドールを受賞するなどすでに国際的な評価を得ていた。ただ今回はせりふが英語ではなく韓国語なのでアカデミー賞では不利との見方もあったが見事に覆した。
世界を覆う格差へのアプローチがアカデミー会員の心を鋭くえぐったと解釈してもいいだろう。同時に韓国の名優であり主演だったソン・ガンホ氏ら、俳優陣の演技も高い評価を得たことは間違いない。
作品は、貧しい一家が大金持ちのIT企業の家庭にあたかも寄生虫のように入り込んでいく物語だ。金持ちが居住する豪邸とその地下室を巧みに使うなど、映像の随所に格差という主題が練り込まれている。
臭いを用いた描写も鮮烈だ。金持ちは貧しい人々の人生など歯牙にもかけず、限度を超えて傷つけていく。こうした格差の描き方は見る者に忘れ難い衝撃を次々と与える。
ポン・ジュノ監督が紡ぎ出した底知れぬ奥行きは、財閥による富の寡占など韓国特有の問題だけでなく、世界が抱える格差が放つ「腐臭」を残酷なまでに抽出している。その意味でポン監督は、映画の持つ力強い社会性を改めて認識させたのではないか。
金持ちと貧しい人々。この対比を織り込んだ映画は珍しくない。米映画「陽のあたる場所」(一九五一年公開、ジョージ・スティーブンス監督)や仏伊合作映画「太陽がいっぱい」(六〇年公開、ルネ・クレマン監督)はいずれも貧しい青年と犯罪がテーマだ。一昨年のパルムドールを受賞した「万引き家族」(二〇一八年公開、是枝裕和監督)も日本の貧しい偽家族の生活を描いた。
ポン監督も貧富という普遍的で避けて通れないテーマに向き合った。それは監督自身が、社会に向けて作品を訴え続ける映画芸術家としての責務ととらえたからではないか。
アカデミー賞は英語ではない作品を評価したことで自ら歴史を塗り替えた。「パラサイト」の受賞が、欧米だけでなくアジアやアフリカなど世界の映画作家に勇気を与え、さらなる傑作を生み出す起爆剤となることを期待したい。

 


貧しい一家の“計画”とは…!?『パラサイト 半地下の家族』90秒予告