施政方針演説 現実を隠す改革の幻想 - 信濃毎日新聞(2020年1月21日)

https://www.shinmai.co.jp/news/nagano/20200121/KT200120ETI090010000.php
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通常国会がきのう、召集された。安倍晋三首相は施政方針演説で「社会保障をはじめ、国のかたちに関わる大改革を進めていく」と述べている。前面には全世代型社会保障や成長戦略の実現などを打ち出した。
内実は厳しい。超高齢化社会に向けて、負担や給付のあり方に根本から切り込み、改革していく姿勢は見えない。
成長戦略は、第5世代(5G)移動通信システムや人工知能(AI)などを並べているものの、米国や中国に引き離されたままだ。「世界をリードする」という言葉に実態は伴わない。
財政再建にはほとんど言及しなかった。来年度当初予算案については「税収は過去最高」「公債発行は8年連続で減額」と述べて胸を張った。
実態はどうか。前提としている名目の経済成長率は2・1%で、現在の実力とされる1%程度を大きく上回る。2019年度は税収増にブレーキがかかっているのに、20年度に過去最高の税収を見込むのは楽観的に過ぎる。
公債発行の減額もまやかしだ。減額は1千億円にすぎない。それも外国為替資金特別会計から従来ルールを超える額を繰り入れるなど、「禁じ手」の対応で財源をかき集めた結果だ。例年通りの経済成長率で税収が想定より減れば、新たな国債発行は避けられない。
25年度の基礎的財政収支の黒字化を目指すとも述べた。政府が17日に示した中長期財政試算は、高い経済成長率でも3兆6千億円の赤字だ。従来の成長だと8兆円を超える。政府は現実との乖離(かいり)をどう説明するのか。
外交も同じだ。北朝鮮に対しては「拉致問題の解決に向け、金正恩朝鮮労働党委員長と条件を付けずに向き合う」と強調。ロシアとは「日ソ共同宣言を基礎として交渉を加速」とした。交渉の行き詰まりから懸け離れている。
桜を見る会」を巡る疑惑や、それに伴う公文書の取り扱いの問題、カジノを含む統合型リゾート施設(IR)に絡む汚職事件などにも言及しなかった。紛争に巻き込まれる懸念が残る自衛隊の中東派遣も「日本船舶の安全を確保する」と述べただけだ。
楽観的な目標や数値を掲げて改革の幻想をふりまき、政権に不都合な問題は覆い隠す。これは国会と国民の軽視である。必要なのは、厳しい状況を国会の共通認識とした上で、国民の前で道を切り開く政策論争をすることだ。空疎な言葉では未来は築けない。