安保改定60年 安定と価値の礎として - 朝日新聞(2020年1月19日)

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60年前のきょう、現在の日米安保条約が調印された。
米軍の基地使用だけが明記されていた片務的な旧条約を、岸信介首相が改定し、米国に日本防衛の義務を課した。以来、日本の外交・安全保障政策の基軸であり続けている。
一方で、安保闘争といわれる大規模な反対デモのなか、国会承認が強行された歴史も思い起こされる。それは5年前、安全保障関連法の成立に突き進んだ安倍首相の姿に重なる。
日本では安保条約が憲法より上位にある――。過重な米軍基地の負担に苦しむ沖縄で何度も語られてきたこの言葉は、本来、安保が守るべき価値が、その名のもとに踏みにじられてきた現実を物語る。
安保条約は前文に「民主主義の諸原則、個人の自由及び法の支配」の「擁護」を掲げる。こうした普遍的な価値を重んじ、国際規範に基づく秩序の形成に寄与することこそ、日本が進むべき道であり、それに資する安保でなければなるまい。
だが、米ソ冷戦の30年をへて、ポスト冷戦の30年を振り返った時、軍事的な協力態勢の強化と、繰り返される自衛隊の海外派遣によって、憲法9条に示された理念が後退し続けていると言わざるをえない。
さらに今、「米国第一主義」を掲げるトランプ大統領の登場で、米国自体の近視眼的な判断が安全保障のリスクとなっている。国際秩序の擁護者でなく、むしろ混乱要因となった米国とどう付き合うのかは、これまで以上に難題だ。
この先の日米関係を考えるうえで、心に留めるべきことは、いくつもある。
第一に、日米安保を対立の枠組みにしてはならない。米中両大国が覇を争う時代は続くだろうが、中国の隣国でもある日本は、米中の共存を促すべきだ。
第二に、米国の単なる代弁者であってはならない。地域や国際社会のために何が有効か、日本自身が主体的に考え、必要な時には米国に苦言を呈さねばならない。
第三に、国民の理解と支持が不可欠だ。安保条約と同時に結ばれ、在日米軍に様々な特権を認めた日米地位協定によって、沖縄に限らず、日本の各地で、住民の暮らしや権利が脅かされている。この状況は一日も早く解消しなければならない。
中国の軍拡や北朝鮮の脅威など、日本を取り巻く環境の厳しさを考えれば、日米安保の重要性はこれからも変わるまい。
であればこそ、米国にただ付き従うのではなく、安定した国際秩序をいかに築くか。60年の積み重ねを踏まえた深慮を、日本外交が示す時である。