(余録)太平洋戦争の発端となった… - 毎日新聞(2016年11月10日)

http://mainichi.jp/articles/20161110/ddm/001/070/088000c
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太平洋戦争の発端となった日本軍の真珠湾攻撃が文明史的出来事なのは、孤立主義にとらわれていた米国の世論を一変させたからだ。それは第二次大戦参戦をもたらしたのはもちろん、米国を戦後の世界秩序構築に向かわせることになる。
第一次大戦後の国際連盟を提唱しながら自らは参加しなかった米国である。すでに経済超大国となりながら、大(だい)恐(きょう)慌(こう)時は極端な保護貿易主義によって世界経済の基軸国の責任も負おうとしなかった。結局はそれが欧日ファシズムの台頭を招き、次の大戦を呼び寄せた。
その反省から生み出された戦後世界秩序で、米国は自由貿易体制や国際安全保障における基軸的役割を自ら果たした。米国の力の相対的低下や冷戦終結をみた後も多極間の協調で秩序の基本は維持され、そのルールは守られている。少なくとも2016年までは……。
「メキシコとの国境に壁をつくる」「イスラム教徒は入国規制する」などと訴え、保護主義的な「米国第一」を掲げるトランプ氏を米国民は次期大統領に選んだ。その言葉通りなら、米国が主導した戦後世界と価値観を異にする政権がワシントンに誕生することになる。
デマゴーグ(扇動政治家)の代表たる古代ギリシャの政治家クレオンは攻撃的で派手な弁舌で名高いが、独自の政治的事績は乏しいという。トランプ氏も放言同然の公約をそう実現できるとも思えぬが、迷走すればしたで世界は予測不能のリスクを抱えることになる。
英国のEU離脱に続き、長く国際秩序を主導した国の民主政治の大乱調である。やってくる未知の世界が2度の大戦前の光景に似ていないことを願いたい。