日米安保条約改定60年 激動期に適合する同盟に - 毎日新聞(2020年1月19日)

https://mainichi.jp/articles/20200119/ddm/005/070/035000c
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日米安全保障条約改定の調印から60年を迎えた。米軍駐留を認める旧条約を更新し、米国の日本防衛義務を明確にした。同盟の土台である。
1960年は米ソ冷戦のさなかだった。戦争に巻き込まれると訴える反戦平和の大規模な反対運動が起き、社会は騒然となった。
それでも日本が再び戦禍を被ることがなかったのは、平和主義の理念だけでなく世界最強国との同盟が結果的に抑止力となったからだろう。
60周年に先立ち、茂木敏充外相の表敬を受けたシュルツ元米国務長官は「引き続き日米同盟が強固であるよう願っている」と述べた。
レーガン政権で日米関係の強化を進めたシュルツ氏は同盟を「庭造り」にしばしば例えた。手入れを怠れば荒れ放題になるという戒めだ。
いまの日米関係は管理が行き届いているだろうか。

抑止力を持つ安定装置
「日本が攻撃されればあらゆる犠牲を払って米国は第三次世界大戦を戦う。しかし、米国が攻撃されても日本は助ける必要はまったくない」
トランプ米大統領は昨年、日米安保条約は不公平だと米メディアに語った。持論の日本による安全保障の「ただ乗り」論である。
同盟は脅威を共有する国同士が軍事的な行動を共にする枠組みだ。ただし、現行憲法下で海外での日本の軍事行動は制約されている。
条約は一方で米軍への基地提供を義務付けた。米軍は抑止力を提供しただけでなく、日本周辺海域の航行の安全を確保し、貿易の拡大など経済的な恩恵も双方にもたらした。
共通の敵だったソ連の崩壊後も同盟が存続したのは、北朝鮮や中国など新たな脅威に対処する安定装置としての役割を見いだしたからだ。
日本は朝鮮半島台湾海峡での有事を想定した周辺事態法や有事関連法、集団的自衛権行使を認めた安保関連法を次々と制定した。
同時多発テロ後の対テロ戦争ではインド洋に補給艦を派遣し、イラク自衛隊部隊を送った。いずれも米国の軍事行動への支援だ。
米国も東日本大震災時に2万人を超える米軍を被災地に派遣した。オバマ前大統領の被爆地・広島訪問は成熟した関係を物語った。
日米が強固な関係を築いたのは、ともに役割を拡大し、相互に信頼を高めてきたからに他ならない。「ただ乗り」は的外れの指摘だ。
その米国は国際社会での影響力を低下させている。長引くテロとの戦いで疲弊し、世界の課題に関わろうとしなくなった。一方で中国やロシアは強権的な振る舞いを隠さず、米国に対する挑戦を続けている。
米中露の力関係が揺らぎ、激変期に差し掛かる国際情勢の変化に日本はどう対応すべきだろうか。

対米追従からの脱却を
まず同盟を固め直す必要がある。トランプ氏は米軍駐留経費の負担増額を日本に要請しているが、同盟の価値はカネで測れるものではない。
負担の多寡で配備する軍事力を決めるなら、適切な抑止力にはならない。共通の価値観を守る目的がかすみ、同盟は衰退する。
同盟をトランプ氏は弱めるかもしれない。だからといって近い将来、軍事力と経済力で米国に勝る国が現れるとも思えない。
日本にとって米国との同盟が安全や経済の利益を最大化する基盤であることに変わりはない。同盟の維持と強化は最も現実的な選択だろう。
北朝鮮の核・ミサイルや中国の海洋進出には米国を基軸に同盟国同士の連携が不可欠だ。すでに日米韓や日米豪、日米印などの枠組みがある。日本は新たなネットワークづくりを引き続き主導すべきだ。
米国依存が生んだ対米追従の構図から脱却することも迫られる。
今回の中東海域への護衛艦派遣は米国に配慮した結果だ。自衛隊の海外派遣は日本の安全を優先にすべきで安易な運用は平和主義を損なう。
米国追従のいびつさを象徴するのが沖縄の米軍基地問題である。
日本政府は安保をたてに沖縄の反発を抑え込もうとしている。そうして建設された基地の運営は不安定になる。米国の利益にもならない。
駐留米軍の特権を認めた日米地位協定も手付かずだ。事故の危険と騒音に苦しむ住民の負担を軽減できるよう地位協定の改定は急務だ。互いの信頼が低下すれば同盟も揺らぐ。
現実の世界に適合する同盟を構築する。そのために、不断の手入れが重要なのは言うまでもない。