日米首脳会談 安保の誤解は正さねば - 東京新聞(2019年6月29日)

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トランプ米大統領日米安全保障条約の破棄に言及したという。「あまりに一方的だ」との理由だそうだが、日米安保は米国だけが義務を負う片務条約では決してない。事実誤認は正す必要がある。
ブルームバーグ通信が報じたトランプ氏の発言は、近しい人物との私的な会話で述べたという。
トランプ氏の理屈はこうだ。
日米安保条約は、日本が武力攻撃を受けたとき、米国には日本を防衛する義務を定めているが、米国が攻撃されても、日本には米国を守る義務はない。だから「あまりに一方的だ」と。
菅義偉官房長官は「米大統領府から『米政府の立場と相いれないものである』と確認した」と、記者会見で述べたが、条約破棄に直接言及したか否かを別にしても、トランプ氏が安保条約を不公平と感じているのは確かなようだ。
トランプ氏の発言は、日米貿易交渉を有利に運ぶため、安保条約に言及し、日本側に譲歩を迫ることが真の狙いなのかもしれない。
とはいえ現職大統領の発言だ。安倍晋三首相がきのうの首脳会談で、報道の真偽を問うことはなかったが、それでよかったのか。
一九六〇年改定の日米安保条約は米国に日本防衛義務を、日本には米軍への基地提供義務を課す。
米軍の日本駐留費用は条約上、米政府が全額負担することになっているが、日本政府は支払い義務のある土地の借料などに加え、本来支払う必要のない費用含めて、約六千億円を毎年負担している。
騒音や事故、米兵の犯罪など米軍基地の存在は周辺住民にとっては重い負担だ。日米安保条約体制は双務的であり、トランプ氏の発言に代表される「安保ただ乗り」論は当たらない。条約を巡る誤解は正していかねばなるまい。
さらにトランプ氏の発言で聞き捨てならないのは「沖縄の巨大な基地の移設」は「米国からのある種の土地収奪だ」として経済的補償を求める考えを示したことだ。
米軍普天間飛行場宜野湾市)を念頭に置いているのだろうが、この場所は戦前、集落が点在する農村地帯であり、住民を収容している間に、まさに米軍が収奪した土地である。歴史的経緯を無視することは許されない。
東アジアの現状を考えれば安保条約を破棄して米軍が日本から全面撤退することも、日本が憲法改正集団的自衛権の行使を認め、米国とともに戦う国になることも現実的でない。それをトランプ氏に説くことも首相の仕事である。