安倍首相の7年 議会民主制を蝕む驕慢  - 東京新聞(2019年12月27日)

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安倍晋三首相の政権復帰から七年がたった。通算在職日数が歴代最長となる一方で、驕(おご)りや緩みなど長期政権の弊害は、民主主義の基盤を蝕(むしば)みつつある。
年の瀬に現職国会議員らの逮捕に至った「カジノ汚職」が、政権の来し方を象徴しているようでもある。二〇一二年十二月に発足した第二次安倍内閣以降の七年間、日本の民主主義がいい方向に進んだとはとても言えない現状だ。
第一次内閣を含む安倍首相の通算在職日数は今年十一月、最長だった明治・大正期の桂太郎首相を抜いた。自民党総裁任期の二一年九月まで続投すれば、最長記録を更新し続けることになる。

◆近しい関係者への厚遇
まれに見る長期政権だ。政策実行力や外交交渉力を醸成する政権安定は、一般的には望ましい。
しかし、安倍政権は長期政権ゆえの弊害の方が目立つようになった。その典型が今年後半に野党の追及が本格化した「桜を見る会」の問題であり、さかのぼれば森友・加計学園を巡る問題だろう。
共通するのは、首相に近しい関係者への厚遇であり、それが発覚した後、首相に都合の悪い記録を抹消する政権全体の姿勢である。
国有地の格安売却が問題となった森友問題では、財務官僚が公文書の改ざんにまで手を染めた。官僚機構の頂点に君臨したエリート集団の落日を思わざるを得ない。
桜を見る会では招待者名簿が規定を理由に破棄され、復元しようと努力する姿すら見せない。記録を残して評価を後世に委ねるという基本姿勢の欠如が、安倍政権の全体に広がっている。
なぜこうなってしまったのか。最も大きな理由は、政権中枢の力が過度に強まったことだろう。
政策決定の主導権を、かつて行政を牛耳っていた官僚機構から、国民を代表する政治家に取り戻すことは「平成の政治改革」の主眼だった。いわゆる政治主導だ。

◆後継不在が緊張感奪う
首相官邸に権限や権力を集めることは自民党に限らず、旧民主党政権も目指したことではある。
しかし、政権中枢の増長は想定を超え、中枢に君臨する政治家には多少の無理なら押し通せるという「全能感」を、内閣人事局に人事権を掌握された高級官僚には、政権幹部への忖度(そんたく)を恥じない気風を生んでしまった。
カジノ解禁法に限らず、特定秘密保護法や安全保障関連法、「共謀罪」法など反対が強い法律を成立させる強引さは、そうした全能感や忖度と無関係ではあるまい。
一つの政権が長く続けば続くほど、その弊害も積もり重なる。私たちが今、目の当たりにしているのはその惨状にほかならない。
共同通信社の最新全国世論調査によると、安倍内閣を支持する理由で最も多いのは「ほかに適当な人がいない」で48・1%に上る。
政権交代の可能性があれば、政権運営の緊張感につながる。逆に首相に交代を迫る政治勢力の不在は政治から緊張感を奪い、政権中枢の増長を促し、長期政権を許す大きな要因となっている。
衆院小選挙区制導入を柱とする平成の政治改革は政権交代可能な二大政党制を目指し、選挙を派閥同士の争いから政党・政策本位にする狙いがあった。派閥単位で無理な資金集めをしなくてもすむように政党交付金も導入された。
こうした改革により、かつてのロッキードリクルートのような大型疑獄事件は鳴りをひそめたものの、公認権や政治資金の配分権をも握る政権中枢に物言えぬ空気は与党内にも広がり、安倍首相の任期が迫る中、有力な後継候補すら見えてこないのが実態だ。
野党側も旧民主党の政権転落後は離合集散が続く。立憲民主、国民民主両党の合流に向けた協議がようやく始まったが、政権奪還を視野に入れた土台ができるか否かが、厳しく問われる局面である。
最も深刻な問題は、政権中枢の驕慢(きょうまん)さが、首相官邸を頂点とする行政と、国民の代表で構成される国会との関係をも変えてしまったことだ。三権分立の危機である。
国会審議の形骸化は指摘されて久しいが、安倍政権の長期化とともに、そのひどさが増している。

◆権力集中の弊害を正す
国会は国権の最高機関であり、唯一の立法機関だ。行政監視や国政の調査は、民主主義の基本である三権分立を構成する重要な役割だが、国会を軽視する政権の振る舞いで大きく損なわれている。
安倍政権は要請があっても国会を開こうとせず、予算委員会の開催にも応じようとしない。野党の質問にはまともに答えず、文書の提出も拒む。これでは国会が自らの権能を果たせるわけがない。
権力集中の弊害は正し、民主主義を立て直さねばならない。切迫性を欠く憲法改正よりも、よほど緊急を要する政治課題である。