参院選きょう公示 三権分立の不全を問う - 東京新聞(2019年7月4日)

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きょう公示される参院選は、国会の著しい機能低下が指摘される中での審判でもある。三権分立の機能不全を放置していいのか、公約と併せて問いたい。
参院選はきょう公示され、二十一日の投開票日に向けて激しい舌戦に突入する。三年に一度、半数が改選される参院選は政権選択の衆院選とは異なり、時の政権に中間評価を下す選挙とされる。
二〇一二年十二月に政権復帰した安倍晋三首相の自公政権はすでに六年半が経過した。政権継続を望むのか、近い将来の政権交代につながるくさびを打ち込むのか、有権者の判断が問われる。

◆政権の実績訴える自民
各党の公約はすでに出そろっており、十七日間にわたる選挙運動期間中、各党、各候補の訴えに耳を傾け、貴重な票を投じたい。
自民党の公約は外交・防衛や経済政策、社会保障、地方創生、防災など、六年にわたる安倍政権の実績を強調し、政権の継続や政治の安定を訴える内容だ。
早期の実現を目指すとした改憲については、自衛隊の明記、緊急事態対応、(参院選での)合区解消、教育充実の四項目を列挙して「党内外での議論を活発に行い、衆参の憲法審査会で憲法論議を丁寧に深める」としている。
首相も改憲について「しっかりと議論するのかしないのか、未来に進むのか全く進まないのかを問うのが参院選だ」と述べている。
改憲自民党結党以来の党是であり、首相の悲願でもある。首相は党総裁として、改憲を主要争点に位置付け、実現に向けた環境を整えたいのだろう。
改憲が、安倍首相の下で行われたこれまでの国政選挙に続き、今回の参院選でも主要争点であることは否定はしない。
とはいえ、改憲を望む意見が有権者の多数派とは言い難い。

◆官邸に過度な権力集中
共同通信社が六月中旬に実施した全国電世論調査によると、安倍首相の下での改憲に「反対」は54・3%に上り、「賛成」は31・3%にとどまっている。
与党でも公明党は公約で、自衛隊明記による九条改憲に「慎重に議論されるべきだ」としている。
改憲は国民の幅広い合意に基づいて行われるべきである。
改憲しなければ、国民の平穏な暮らしが脅かされる切迫した状況でないにもかかわらず、党是だからと急ぐ必要がどこにあるのか。
むしろ、国政選挙を通じて問われなければならないのは、安倍政権下での民主主義の在り方、三権分立の危機ではなかろうか。
日本の政治は、内閣(政府)が国民を代表する国会の信任で存立する議院内閣制だが、新憲法下でも久しく「官僚内閣制」だと指摘された。中央省庁の官僚が法案を作り、許認可権などを駆使して、政治を長く牛耳ってきたからだ。
この「官僚主導」政治を国民の代表である「政治家主導」に変えて、国会の指名を受けた首相の下に権限を集めるのが、平成の一連の政治改革だが、首相官邸への権力集中が過度に進み、安倍政権の下でそれが顕著になった。
森友・加計学園を巡る問題がその典型だろう。国有地売却や大学の学部新設を巡り、公平・公正であるべき行政判断が、首相らへの忖度(そんたく)で歪(ゆが)められたのではないかと指摘され、財務官僚は公文書の改ざんにまで手を染めた。
内閣人事局の発足により首相官邸が幹部官僚の人事権を掌握したため、時の権力者の意に沿う「官邸官僚」ばかりが重用され、沿わない官僚は排除されるようになった。首相官邸への権力集中の弊害である。
さらに問題なのは、国権の最高機関であり、国の唯一の立法機関である国会が、国政を調査し、行政を監視するという本来の機能を果たしていないことだ。
森友・加計問題では結局、疑惑を国会の手で解明するには至らなかった。今年、明らかになった統計不正問題でも、あいまいな形での幕引きを許してしまった。
与党は国会での徹底的な調査や審議に応じようとせず、野党の提案は放置され、よりよい法律を作るという立法府本来の機能も果たそうとしない。政府を擁護するあまりの役割放棄にほかならない。

◆権利と自由を守るため
日本の民主主義は、三権分立が機能することが前提だ。国会(立法)、内閣(行政)、裁判所(司法)という独立した三つの機関が相互に抑制し、バランスを保ってこそ、権力の乱用を防ぎ、国民の権利と自由を保障できる。
首相官邸への権力集中や、国会の機能不全でそのバランスが崩れたら…。その不利益を被るのは私たち、国民自身である。今の政党や議員、候補者にそうした危機意識があるのか。参院選で問うてみたい、私たちの争点である。