一票の不平等訴訟 民主制の命綱ゆえに - 東京新聞(2019年12月6日)

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一人一票の人と〇・三票しかない人がいる。参院選での不平等を問うた訴訟の高裁判決が出そろった。憲法の要請である、限りなき平等を追求すべきだ。
大学卒の人だけが一人で二票あれば、「不平等だ」と声が上がるはずだ。でも、英国では実際に大卒者が二票持つ時代があった。居住地の選挙区と、オックスフォード選挙区など大学選挙区でそれぞれ投票できた。
「優秀な船長は常に正しい港へと運んでくれる」-。十九世紀の英国の哲学者J・S・ミルは知性と教育水準が高い人の意見が影響力を増すように、投票権も複数票持つべきだと考えていた。

◆歴史は「平等」へ進む
古代ギリシャアリストテレスも肉体労働者は政治に参加すべきでないと考えた。自分の生活で精一杯(せいいっぱい)で「公共善」を考える余裕がないと…。むろん現代では差別主義のレッテルを貼られる。
女性の参政権もそうだ。十九世紀末のニュージーランドが最初で、英国やドイツなど西欧で広がったのは第一次大戦時ごろ。日本では第二次大戦後だ。
選挙制度は時代とともに変化する。かつ平等の方向に進むのが、歴史の教えだ。では、住む地域で不平等ができる場合はどうか。この訴訟が投げかけるテーマである。七月の参院選では有権者数が最少の福井選挙区と最多の宮城選挙区の格差が三・〇〇倍だった。
二十世紀に実現した普通選挙の原理は、成人であれば同じ一票の重みを持ち、民主主義の実現へと動くことである。民主主義を名乗るなら、同じ投票価値でなければならないはずだ。
米国では一九八三年に連邦最高裁が下院議員選挙で、ある州の一・〇〇七倍の格差さえ違憲無効の判決を出したほどである。

改憲発議にも影響が
法の下の平等」の人権論から、近年では統治論から一人一票が論じられる。こんな論理だ。
憲法前文は「日本国民は、正当に選挙された国会における代表者を通じて行動し…」で始まる。正当な選挙でなく、いびつな選挙であれば、憲法五六条に定めた国会での衆参両議院の議決もいびつになる。有権者の少数派が議席の多数派になる「少数決」になっているなら、もはや民主主義とは呼べないからである。
今回の参院選の選挙区に当てはめてみる。人口が最少の選挙区から順番に議員を足し算する。議員数が過半数に達するのは人口40・8%のときだ。約40%が過半数の議員を選出しているのと等しい。少数決の世界でないか。
確かに参院では「合区」を採り入れ、不平等の解消に向けて動いてはいる。三・〇八倍の格差があった二〇一六年の参院選最高裁が「合憲」としたのも、その評価の表れだ。同時に「制度の抜本見直しをし、必ず結論を得る」との国会の約束を信じたからである。
今回の訴訟では「合憲」判決が十四件、「違憲状態」が二件だった。抜本改正は実っていないが、「途上段階」とみるか、「未達成」とみるかの違いであろう。
だが、差し迫った状況が頭をもたげている。憲法改正問題だ。首相の悲願であり、改憲を呼び掛ける状況である。むろん改憲発議には衆参ともに「三分の二」の賛成が必要になる。
一票の不平等は「三分の二」ラインに少なからず影響を及ぼしうる。不平等の存在が正しい議席数に結びつかないからだ。制度のゆがみが生んだ賛成票で三分の二に到達すれば、民意と乖離(かいり)してしまう。主権者の望まない改憲発議となってはいけない。
現在、衆院比例代表は十一のブロック制である。仮に参院がこのブロック制を採用すれば、人口の48・2%が過半数の議員を選ぶことになる。新方式を導入する衆院小選挙区とほぼ同じ水準まで縮まる。踏み切ってはどうか。
学界では一人一票、つまり人口比例説が有力である。「選挙権が憲法の基本である民主主義・立憲主義の根幹であるとすれば、その侵害、不平等はおよそ許されず、本来、一人一票が基本である。これが現在、圧倒的に有力である」-と横浜国立大の君塚正臣教授は論文で記している。

◆議員は「全国民の代表」
「地方の声が反映されにくい」との意見もあるが、国会議員は「地方の代表」ではなく、「全国民の代表」と憲法で定める。参院の格差が衆院より大きくていいはずもない。最高裁は広い裁量権を国会に認めるが、参院の抜本改正は急ぐべきだ。
選挙こそ民主制の命綱である。参院衆院とともに正しい民意を国政に反映せねばならない。それが一人一票の世界だ。戦後日本の岐路に立つ今こそ、その実現が求められていよう。